
多くの企業がDXを推進しているが、実際に成果を上げ「トランスフォーメーション(変革)」を実現できたケースは多くない。壁となっている要因、実現に必要なことは何か。2017年頃にRPAの概念を日本に普及させ、現在は“DXの第一人者”として大手企業の経営コンサルティングを行うB&DX社長の安部慶喜氏に日本企業におけるDX成功のカギを聞いた。
日本企業のワークスタイルはなぜ変わらないのか
井無田仲氏(以下、井無田):安部さんは、ITコンサルタントとしてキャリアをスタートされていますが、今は業務や経営戦略まで幅広い領域のコンサルティングを得意とされています。ご経歴から教えていただけますか。
安部慶喜氏(以下、安部):新卒でデロイトトーマツコンサルティング(現:アビームコンサルティング)に入社以来、ずっとコンサルティングに従事しています。ただ、対象はアプリケーションコンサルから業務コンサル、戦略コンサルに広がりました。
私が入社した当時、日本にクラウド型ERP(基幹業務システム)が入ってきたばかり。社内にオラクル社のERP導入部門が新設されたので、「新しいことにチャレンジするのはおもしろそうだ」と加わりました。まだ誰もノウハウをもっていない時期に飛び込んだので、いつしか社内でもオラクルのERPプロジェクト経験が一番多くなり、入社3年目にはオラクル社に声を掛けられてERPに関する書籍を執筆しました。

大学院卒業後、デロイトトーマツコンサルティング(現:アビームコンサルティング)に入社。2011年より執行役員。21年、B&DXを設立。『RPAの真髄』『DXの真髄』『Digital-Oriented革命』(日経BP)など著書多数。
井無田:新入社員時代から、ずっとDXに携わっておられるのですね。それだけ早くに専門家として認められたのは素晴らしいです。
安部:しかし、しばらくすると、仕組みを導入するだけでは得られる成果が限定的だと感じるようになりました。日本企業では、ERPの導入が業務効率化になかなかつながらなかったのです。
その理由は、日本では「システムは業務にあわせて作られるもの」という意識が強く、“業務を標準化する”という発想がなかったからです。単一事業で成長してきた企業が多く、また終身雇用が一般的なので、「業務のやり方も担当者も変わらない」のが当たり前。
ですから、今までの業務のやり方に合わせて要件定義をし、パッケージソフトなのに大規模な開発をしてしまう。いつまで経っても業務は標準化されず、仕事のやり方も変わらない状況でした。
井無田: わかります。日本の企業文化では、パッケージソフトにあわせて業務を見直すことに抵抗感を抱く傾向がありますね。
安部:一方、欧米では転職が当たり前ですから、誰が担当してもすぐに業務を引き継げるよう、業務やシステムは標準化されています。ERPなどのパッケージソフトも標準のまま利用することを想定しており、開発せずに導入することが前提です。
その差を海外のプロジェクトに携わり、現地で仕事をした際に実感しました。日本では、今の業務とシステムの差を「ギャップ」と言い、欧米はあるべき姿との差を「ギャップ」と言う。
自動的に機能をアップデートしてくれることで、業務もアップデートされるクラウドシステムの良さを活かせていない日本企業の慣習に危機感を抱くようになり、ITをテコにして業務変革を推進する業務コンサルに携わるようになりました。
ところが、今度は企業の制度や組織の役割、権限などがネックになりました。「ここはうちの責任の範囲外だから手を出せない」ということが非常に多い。
井無田:たしかに、業務改革には組織の壁がつきものです。その壁はどのように乗り越えたのですか。
安部:会社組織の権限や責任を変えるのはCxOの領域なので、そこにアプローチして経営戦略から企業変革を支援したいと考えるようになり、戦略コンサルタントになりました。
この記事は参考になりましたか?
- この記事の著者
-
井無田 仲(イムタ ナカ)
テックタッチ株式会社 代表取締役慶應義塾大学法学部、コロンビア大学MBA卒
2003年から2011年までドイツ証券、新生銀行にて企業の資金調達/M&A助言業務に従事後、ユナイテッド社で事業責任者、米国子会社代表などを歴任し大規模サービスの開発・グロースなどを手がける。「ITリテラシーがいらなくなる...※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
-
中釜 由起子(ナカガマ ユキコ)
テックタッチ株式会社 Head of PR中央大学法学部卒。2005年から2019年まで朝日新聞社で記者・新規事業担当、「telling,」創刊編集長などを務める。株式会社ジーニーで広報・ブランディング・マーケティング等の責任者を経て2023年にテックタッチへ。日本のDX推進をアシストするシステム利...
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
この記事は参考になりましたか?
この記事をシェア