東急コミュニティーのIT推進リーダーが実践する、「課題とデータ」を起点に進めるデジタルアダプションとは?
株式会社東急コミュニティー 経営戦略統括部 グループIT推進部 ITインフラ企画課 主幹 柏崎正彦氏

「業務に役立つはず、働き方が変わるはず!」と導入したITツールが、なかなか社内で使ってもらえない、浸透していかない……。こうした利活用・定着化の悩みを抱える企業のIT担当者は多いだろう。今回話を伺った東急コミュニティーの柏崎正彦氏もまた、社内のIT推進に取り組む中でそうした課題に直面し、現在は全社的なデジタルアダプションに注力している。次第にその成果が表れ始めていると話す同氏。取り組みの裏側や、成功のために必要なポイントを尋ねた。
便利なITツール、「全員が使いこなしている」と思い込んでいた
東急不動産ホールディングスの中で、マンション・ビル・施設の管理運営や、大規模改修工事・リフォームなどの事業を手がける東急コミュニティー。柏崎氏は、同社のネットワークやクラウド、SaaSアプリケーションなど、社内インフラの全体の運用を手がけている。
「技術者としてだけでなく、企画にも関わりながら仕事をしています。入社したのは6年前……当時は、社内にDXという言葉は存在しておらず、メールサーバーやファイルサーバーをオンプレミス環境からクラウドに移行していくことが主なテーマでした」(柏崎氏)

柏崎正彦氏
同社はこれまで、クラウドへの移行によってIT管理コストを削減してきたほか、業務に関しては、たとえばマンションの理事会をビデオ会議ツールによって遠隔で行うなどの効率化を進めてきた。ただし、まだ働き方そのものに劇的な変革は見られないため、直近はクラウドやSaaSをより組織的に使いこなしていくことを目標にしているという。その上で重要なのは、ITツールではなく「現場のニーズ」であると柏崎氏は語る。
「私の経験上、施策に関する主語が『IT』になってしまうと大抵の場合は失敗します。当社でもDXや生成AIによる仕事の自動化が進められていますが、主語がIT技術やツールになってしまっているケースが見られます。そうではなくて、『ニーズは何か』『なぜこれをやるのか』など、課題起点のマインドに切り替えていくことが大切です」(柏崎氏)
東急コミュニティーでは、クラウド移行の過渡期にクラウドコンテンツ管理サービスのBoxを導入した。しかし導入から1年後には、Boxの「Customer Award 2020 イノベーション賞」を受賞するほど習熟した社員がいる一方で、上手く使いこなせない社員との差が顕著になっていたという。社内7,000人に対し行ったユーザー調査では、45.4%がBoxを「使いづらい」と回答していた。
ここから、同社はデジタルアダプションへ本腰を入れて取り組むようになる。目指すのはBoxの全社への定着だ。ただ、何千人もの社内ユーザー個々のツール活用状況を把握し、目標を設定するのは現実的ではない。とはいえ、現状がわからなければ目標も描けず、勘に頼ることになるため、施策が合っているかどうか判断できない。そこで、社内のSaaSアプリケーション内での行動を分析できるPendoを導入した。
これにより、「Boxの利用状況を数値で把握できるようになった」と柏崎氏。そのツールのどんな機能がよく使われているのか、逆に使われてない機能は何かが可視化され、ツール利用者の割合を高めるためにどのような施策を打てばよいかが見えてくるようになったという。
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森 英信(モリ ヒデノブ)
就職情報誌やMac雑誌の編集業務、モバイルコンテンツ制作会社勤務を経て、2005年に編集プロダクション業務とWebシステム開発事業を展開する会社・アンジーを創業した。編集プロダクション業務では、日本語と英語でのテック関連事例や海外スタートアップのインタビュー、イベントレポートなどの企画・取材・執筆・...
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