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紛争事例に学ぶ、ITユーザの心得

リリース前の宣伝までしたSaaSの開発が失敗──ベンダーとユーザー、それぞれが負う責任を実際の裁判事例から考える

 本連載は、ユーザー企業の情報システム担当者向けに、システム開発における様々な勘所を実際の判例を題材として解説しています。今回取り上げるテーマは「リリース前の宣伝までしたSaaSの開発が失敗──ベンダーとユーザー、それぞれが負う責任を実際の裁判事例から考える」です。ITの世界では、納期やコストが予定をオーバーするプロジェクトがそう珍しくありません。失敗の確立も高いです。近年、SaaSの開発を外部に発注する企業が増えていますが、もし「リリース前に宣伝・告知まで行ったのに」SaaS開発が失敗してしまったら? 今回は、SaaS開発プロジェクトにおける実際の裁判事例を見ながら、ユーザーが押さえておくべきポイント・心構えを学びましょう。

通常のシステム開発では起こらない、SaaS開発特有の問題

 いまやビジネスの世界で欠かせないサービスと言ってよいSaaS。今更ご説明の必要もないでしょう。いわゆるERPを中心に世界中で使われるようになったこのサービス形態は、いまやその範囲を広げ、経営の企画や商品の宣伝・販売、製造、在庫管理など、ありとあらゆる分野に広がっています。

 こうしたSaaSの基盤は、もちろんITということになります。SaaSは当然ながら、WEBやデータベース、アプリケーションおよびハードウェア、ネットワークなどのインフラで構成されており、こうしたシステムの開発はSaaS事業を行う上で中心的な活動といえます。そして、この構築を担うのはSaaSを提供する会社が自ら行う場合もあれば、専門のITベンダーに依頼する場合もあります。元々、各SaaS提供会社はITというよりもその導入対象となる業務のプロ(会計のプロ、人事のプロなど)ですので、サービスの企画や要件定義は自分たちで行い、実際の開発はITベンダーに行ってもらうというのが合理的な方法です。

 ただ、こうした役割分担でサービスを行っていくときに、開発自体が失敗すると少し話が面倒になります。通常のシステム開発の場合は、もし納期が遅れたり、完全に失敗したりすると、発注者であるユーザー企業はそこまでに費やしたコストや労働力など、言ってみれば内向きのものがほとんどです。多額の金銭をドブに捨てることにはなりますが、損害は有形でありその額もある意味はっきりしています。

 しかし、SaaSのような外向けのシステム構築で失敗すると、その被害はコストと労力以外にも広がります。SaaSはSaaS提供会社にとって、これからお金を稼ぎだしてくれるものであり、経営に直結するエンジンです。これが失敗するということは商売そのものの危機であり、お金をドブに捨てたこと以上に深刻です。

 単に「稼げるはずのお金が稼げなくなる」というだけではありません。もしもSaaSの新規リリースを大々的に宣伝などしていた場合、それが予定通りになされなければ企業の信頼失墜につながります。あれだけ宣伝していながらリリースされないとなれば、そのSaaSを利用しようという最終顧客からは敬遠されるかもしれませんし、もしかしたら株価も下がるかもしれません。SaaSの提供失敗は、それまでにかけたコストと労力以外に、将来的な機会損失と信用失墜という無形の損害をもたらすのです。

 では、そうした失敗があったとき、開発を請け負ったITベンダーはどこまで責任をとってくれるのでしょうか? 失敗したわけですから、開発費用の請求はできないかもしれません。そこまでにSaaS提供会社が使った人的コストについても、ペナルティという形で支払ってもらうこともできるかもしれません。それらは開発失敗との因果関係もはっきりしています。

 他方で、機会損失や信用失墜という問題は、その原因がITだけにあるとは限りません。たしかにITが予定通りに出来上がってくれれば発生しなかった問題かもしれませんが、一方でSaaS提供会社がそれほど広範に宣伝をしなければ、被害は小さくて済んだという側面もあります。今回は、そんなSaaSの提供失敗と宣伝活動の関係について判じた裁判についてご紹介します。

 まずは事件の概要からご覧ください。なお、ここからは読みやすさも考慮してSaaS提供会社を「ユーザー」と表記します。

次のページ
宣伝活動とSaaS失敗がもたらした信用失墜

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この記事の著者

細川義洋(ホソカワヨシヒロ)

ITプロセスコンサルタント東京地方裁判所 民事調停委員 IT専門委員1964年神奈川県横浜市生まれ。立教大学経済学部経済学科卒。大学を卒業後、日本電気ソフトウェア㈱ (現 NECソリューションイノベータ㈱)にて金融業向け情報システム及びネットワークシステムの開発・運用に従事した後、2005年より20...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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