“異例のスピード”でコロナ禍のデジタル化に対応
豊中市は大阪市の北に隣接し、人口は約40万人。都市制度の分類では政令指定都市に次ぐ中核市の指定を受けている。アクセスの良さが特徴の1つで、市内には大阪国際空港(伊丹市と豊中市にまたがる)があり、電車や高速道路が縦横に走る。
同市がかねてより掲げていた「豊中市情報化計画」に則ってモバイル環境への対応などを進めていたところ、2020年ごろに新型コロナウイルスの感染が拡大。豊中市 都市経営部 デジタル戦略課長 伊藤洋輔氏は「三密回避のためリモートワークや一斉休校など、危機的な状況をデジタルで変革していこうと市長がメッセージを発しました」と話す。
それが2020年8月に発出された「とよなかデジタル・ガバメント宣言」。9月には2022年を期限とした「とよなかデジタル・ガバメント戦略」を策定し、10月にはデジタル戦略課を新設した。同市が年度の途中で新組織を立ち上げることは異例の事態であったという。それほど危機感をもってスピーディーに取り組みを始めたということだ。まずは各種市民サービスのオンライン化や、押印の見直しなど内部業務のペーパーレス化、電子決裁などを着々と進めていった。
こうしてデジタル化はある程度実現できたものの、まだ市民の生活には浸透していない状態だったと伊藤氏。オンラインになじみが薄いためか、市民はオンラインでも手続きができることを知らず、とりあえず市役所に足を運んでしまう。伊藤氏は「まずは市民の方々に新しいデジタルサービスを体感してもらうことを重視し、サービスのUI/UX向上を検討しつつ新たな戦略を作り直しました」と振り返る。
元々最初のデジタル・ガバメント戦略が2年の期限で急遽策定されたものだったため、後継の戦略として2023年2月に「とよなかデジタル・ガバメント戦略 2.0」を策定。窓口やオンライン手続きの質向上やインフラ整備も盛り込んでいる。
まずはデータをとにかく集める、一方で個人情報は慎重に
デジタル・ガバメント戦略 2.0の中でも特に注目したいのが、データ基盤構築に向けた取り組みだ。伊藤氏は「元々市役所はデータの宝庫です。きちんと利活用できれば、市民サービスの向上につながると考えています。デジタル庁もエビデンスに基づく政策立案(EBPM)を進めており、我々としてもデータの収集・活用をしっかりやっていかなければいけません」と話す。
まずはあらゆるデータを活用できるように、各部局が共有してもいいデータを共有ストレージ(ポータルサイト)に自主的に入れていく形でデータを収集しているという。現状では「すべてのデータを洗い出せたわけではないが、予算決算などの財務データや人口などの統計データなど、ある程度は揃ってきています」と伊藤氏。
特徴的なのはあまり選別せず収集しているということ。伊藤氏は「そのデータが必要かどうか分からなくても、とにかくあれば出してくださいとお願いしています。私たちでは使えるかどうかは判断できないからです。マニアックなデータでも他部局から見たら有用である可能性があります」と話す。
ただし個人情報を含むデータは別だ。民間企業であれば匿名加工をすれば個人情報として扱われなくなるケースもあるが、行政では匿名加工しても個人情報として扱われるなど、ルールが厳しく敷かれているため慎重な対応が必要となる。現状では法務部門と整理しながら検討を進めているという。
データの収集や整形は前処理であり、肝心なのは分析だ。分析ツールにはMicrosoft Power BIを導入し、使い方を共有するワークショップも進めているという。「トヨナカ ダッシュボード」では、可視化された形で市民向けにデータを公開。子育て・福祉、まちづくり、産業、市政情報などのジャンル別にコンテンツを分けており、データセットの検索のためのカタログは「豊中市オープンデータカタログサイト」という外部サイトからアクセスできるようになっている。
今後は、同市のデータ基盤を、マイナポータルや大阪府のデータ連携基盤と連携することも視野に入れていると伊藤氏。そのために、近隣の中枢都市の自治体同士が密に連携を取って進めているという。豊中市の近隣には中核市がいくつかあり、西宮市、尼崎市、豊中市、吹田市が隣接している形だ。全国でも中核市が4つ隣接するのは珍しく、この圏域を各市の頭文字を4つ並べて「NATS(ナッツ)」と呼び、市民サービスの向上や課題解決に向けて積極的に連携しているのだ。そのなかでデジタル部門の課長が不定期で集まり、情報交換もしているという。