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「馴れ合い状態」のベンダーを一掃するには?攻めのIT戦略を叶える“良いベンダー”を見抜く3つの視点

第3回:“エース”に自社を担当してもらうための対策とは

「ドキュメントのカバー率」は馴れ合い度を図る指標

 では、実際に自社で付き合いのある既存ベンダーが“良いベンダー”か、つまり支払う金額や依頼している役割に対して提供される付加価値が高いかどうかを把握したいときはどうすれば良いのか。実はこれを図るものとして分かりやすい指標があります。それは、そのベンダーがシステムや運用に関わる仕様や手順などをまとめた「ドキュメントのカバー率」です。筆者が日々多くのプロジェクトでベンダーと関わる中でも、ドキュメントのカバー率と提案の質や開発力は高い相関度を示しているといえます。

 このドキュメントは納品用の整えられた美麗な資料である必要はなく、簡易なものでも問題ありません。システム開発においては専門領域が異なる技術者が分業して関わるため、ドキュメントは要件や仕様に関する検討の経緯や技術に関する細かいノウハウを残す極めて重要な記録となるのです。

 ベンダー内でドキュメント化の意識が低い場合、システムの知識や技術に関するノウハウが属人化するため、開発効率や品質の維持・向上にネガティブな影響を与えます。たとえば、新規事業プロジェクトを立ち上げる際に、連携が必要なシステムのベンダー担当者に「システムの全体像を示すアーキテクチャ図をください」と伝えてもなかなか出てこず、どこかに埋もれていたであろう10年前の状態から全くアップデートされていないドキュメントが出てきたり、慌てて描いたであろう精度の低いものが提示されたりすることもしばしば。このようなベンダーは発注者に対して新規性のある品質の高いアウトプット(提案や開発)を提供することはできません。

 アウトプットの品質が低いベンダーと長く付き合っていると、IT投資は旧態依然としたシステムの保守運用に割かれることとなり、事業戦略に積極的に貢献する「攻めのIT」戦略を講じることは難しくなります。ベンダーとの関係性を客観的に見直すための最初のアプローチとして、既存のシステムや作業について、何がどの程度ドキュメント化されているのかを改めて確認することをおすすめします。

 また、このドキュメントは、新規プロジェクトの実施やベンダーチェンジの際に、引き継ぎの資料として重要な“足がかり”となります。もし既存ベンダーにおいてドキュメントのカバー率が低い場合は、システムや業務に関するドキュメント化をタスクとして明示的に依頼するとよいでしょう。当然工数分の費用は発生するものの、将来のことを考えれば安い投資です。発注者と馴れ合い状態になっているベンダーは、重要な情報をブラックボックス化することで、依存度を高めていることも少なくありません。この依頼自体がベンダー側に危機感をもたらすことで、関係性が改善されることもあります。

現状をドキュメント化することがベンダーとの新しい関係構築のきっかけになることも

ベンダーと良い関係を築くための「RFP」

 新しいベンダーを採用する際は、独立性の高い新規プロジェクトを依頼してみるのが良いでしょう。引き継ぎの難しさもあるため、既存のシステムやプロジェクトを進めるベンダーをいきなり変えることはあまり推奨できません。また、新しいベンダーの長所も短所もわからない状態で多くを一任することはリスクをともないます。

 新規プロジェクトで新しくベンダーを選定する際は、「RFP(提案依頼書)を作成して複数のベンダーに提案依頼を行い、相見積りを取って比較検討する」という基本のやり方に沿って進めることが大切です。ベンダー選定の際に「社長や事業部長が連れてきたから」「関連会社だから」といった理由でベンダーが選ばれることがありますが、これは選定の時点で馴れ合いが始まっているので、避けるべきでしょう。せっかく新しいベンダーを連れてきても、いきなり馴れ合いの関係になってはあまり意味がありません。

 また、実力と経験が足りないベンダーがこのようなコネクションによって選定されると、後々、これがプロジェクト遂行上の大きな障害となります。ベンダーの実力は千差万別で、得意な専門領域も異なるため、実施するプロジェクトの性質に合わせたベンダー選定が鉄則です。

 ベンダーから良い提案を得るためには、提案の下地となるRFPが自社内でまとまっている必要があります。このRFP作成に備えるためにも、自社のシステム構成図などがまとまっている資料を用意しておくことが有用です。

 たとえば、既存システムの構成図やアーキテクチャ図、企業がどのようなビジョンやミッションをもってバリューを顧客に提供しているかなどの企業理念をまとめた資料、それらを実務として行う際の業務フローや各種指標、課題感などがドキュメントとしてまとまっていると、ベンダーはそれらの資料の意を汲み、具体的な提案ができます。ベンダーはクライアントに提案する際に、プロジェクトを通じて目指す事業の「あるべき姿(To-Be)」を提示しますが、その際に「現状(As-Is)」が適切にまとまっていると、より精度が高く独創的な提案が可能になるのです。

 なお、RFPをまとめる時点で「自社にノウハウが足りない」「ベンダーの選定に自信がない」などと感じたら、そのためのコンサルティングができる人材や企業に依頼することも一つの手です。

現状(As-Is)の資料がまとまっていると、自由な議論や精度が高く独創的な提案が可能になる

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ベンダー選定の3つのポイント

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この記事の著者

橋本 将功(ハシモト マサヨシ)

パラダイスウェア株式会社 代表取締役
早稲田大学第一文学部卒業。文学修士(MA)。IT業界25年目、PM歴24年目、経営歴14年目、父親歴9年目。 Webサイト/Webツール/業務システム/アプリ/組織改革など、500件以上のプロジェクトのリードとサポートを実施。「プロジェクトマネジメントの民主化」の実現...

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