将来像構想のポイントは「IT部門自身の価値最大化」
「運用」と言っても、定義は様々です。運用保守を主体としたオペレータとSE、ITILをベースとしたサービスマネジメント、SREをベースとした継続的エンジニアリングなど、企業特性や業務ごとに異なることが実態です。本稿では「運用」の定義を狭めることはせず、私どもが接している様々なIT運用現場において、将来的にこうあるべきと考える姿、また共通項で使えるアプローチをご紹介します。
まず、将来的にこうあるべきを考える場合、ヒト・モノ・カネで分類するパターン、QCD(品質・コスト・デリバリー)で分類するパターン、PPT(人や組織・プロセス・ツール)で分類するパターンといくつか方式があります。私自身が長年この分野を専門に研究し、様々な業界のお客様と接してきた中で、昨今大きな課題にぶつかるテーマが、ヒト、組織、そしてカルチャーです。
たとえば、クラウド活用を推進したが旧来型の運用を継続している場合や、新たにAPMを採用したが旧来型の監視を継続している場合など様々ですが、共通していることは「ビジネスとIT運用の距離が遠い」こと。これはどのようなテクノロジーを採用しようが、プロセス変革をしようが、変革が難しい領域です。
デザインシンキングやバックキャスティングアプローチで将来の姿を描く際、この「ビジネスとIT運用」をどう近づけるかを意識します。エンタープライズアーキテクチャーにおけるビジネスKPIとシステムKPIの連動、SREにおけるサービスカタログのSLO(サービス レベル目標)デザインなど、アプローチは多数ありますが、共通して考えるポイントは「IT部門の価値を最大限に高めるプロダクトマネジメント」です。
IT部門が企業や事業部門に提供する価値をベースに、この価値提供に必要なプラットフォーム/アーキテクチャー/モダンオペレーションを定義します。そして、このモメンタムを継続的に推進し、かつ自律的に改善するCoE、これが私どもの考える「運用のモダナイズ」の姿です。
カルチャー変革のきっかけとして機能
昨今大きな課題にぶつかるテーマが、ヒト、組織、そしてカルチャーであることを前段でお伝えしました。では、運用のモダナイズは、これらの課題を乗り越えられるのでしょうか。
答えはNOです。企業におけるカルチャーは、リーダー層からグループ会社に至るまで、無意識下における基本行動や思考の原理と言えます。カルチャーを変えるには、強い変革のリーダーシップと専門家の継続的イネーブルメントが必要であることは、弊社が2021年にIBMから分社化した以降の経験からも言えることです。
ただし、課題を乗り越える一端になることは確かでしょう。人や組織を動かす企業カルチャーの中には企業の帰属意識や自身の存在意義があります。運用のモダナイズを推進する中で、ビジネスとIT運用の距離を近づけることは、日々の業務を通じて企業に属するIT人材が、喜びや悔しさを実感する絶好の機会になります。さらに、運用のモダナイズでは、AIなどのデータドリブン、IaC(Infrastructure as Code)などのコーディングスキル、継続的エンジニアリングを行うアジャイル手法など、テクニカルケイパビリティの面で、市場価値を高めるきっかけにもなります。
最初は小さなタスクチームから変革を開始するかもしれません。ただし、この小さなチャレンジが個々人の成功体験を生むことで、徐々に周りを巻き込み、将来的に企業全体の変革につながっていく潮流を作り出します。運用のモダナイズが契機となることで、企業のビジネスを伸ばす推進力になり、さらに、企業全体のカルチャー変革の一端となることが、私の大きな希望であり、未来です。
第2回以降では、弊社の専門家がより具体的な傾向や手法を交えて、運用モダナイズの変革事例を紹介していきます。ぜひお楽しみに。