コスト抑制を可能にする「BYOA」と「BYOM」
テラデータでは、先述した2つの機能のどちらも“コストを抑制”しながら、安全かつ適切に管理されたデータをアナリティクスやAIなどのユースケースに利用できるとする。ここでのコスト抑制の要点は「データの移動を極力少なくすること」にあるという。たとえば、AIの学習においては、モデル側にデータをフィードすることが当たり前だと考えていないだろうか。AI/MLのライフサイクルにおいて、最も負荷が大きいプロセスはモデルの構築やトレーニングではなく、前段のデータを準備する部分だ。ここに時間がかかることで、AI/MLから価値を得るまでのリードタイムが長くなってしまう。また、クラウド上のAI/MLエンジンには、機密性の高いデータを利用できないケースもあり得る。
このようなデータサイエンスチームが抱える悩みについて、テラデータはデータではなく、AI/MLエンジンをデータ側に移動させるアプローチをとった。そのために用意したのは、ClearScape Analyticsに使い慣れたツールを持ち込むための「Bring-Your-Own Analytics」(BYOA)と、ClearScape Analyticsにモデルを持ち込むための「Bring-Your-Own Model」(BYOM)という、2つのソリューションである。BYOAを使うことで、データサイエンティストは特定ツールの利用を強制されることがなくなり、業務生産性の向上につながるという。また、BYOMにより、これまでに投資をしてきたモデル資産の有効活用ができ、より早くビジネス成果を得られるともする。
マクミラン氏は「データのすぐ近くにAI/MLエンジンがある世界を想像してほしい。これは、あなたの会社がF1チームを持つようなものだ。マシンやサーキットコースを基にセンサーテクノロジーを利用してデータを抽出、リアルタイムに分析を行うことで、マシンをより速く走らせることができる」と訴えた。なお、テラデータの顧客には、既に同様の手法で成果を得ているとケースも出てきたという。
とある金融機関では、小規模言語モデルにClearScape Analyticsを利用。顧客から寄せられる苦情をリアルタイム分析し、その後の行動予測に活用している。また、プロアメリカンフットボールリーグであるNFLチームのニューヨーク・ジャイアンツは、クラスタリングモデルを使ってファン体験と収益の向上に取り組んでいるという。この裏側で動いている機能も、ClearScape Analtyicsである。
Query Gridの強みは「超並列」アーキテクチャ
もう1つ、Query GridもBYOAやBYOMと同様に、企業がこれからAI/MLを活用していく上で、柔軟性の高いインフラの実現に貢献する。Query Gridは、クエリをデータ側の環境にプッシュする機能で、“データの移動なし”で結果だけを返してくれる機能だ。企業内データのサイロ化という課題を解決するためのソリューションであり、AWSとMicrosoft Azureを併用しているようなマルチクラウド環境においても、シームレスなデータアクセスが実現できるという。「どの環境からでも、データの移動を最小限に抑えてクエリを実行し、その結果をクラウドサービスの機能と効率的に統合できる。まさにQuery Gridは『差別化の源泉』になり得るだろう」とマクミラン氏。この自信の裏には、ミッションクリティカルなワークロードの実行を支えられる、独自の超並列アーキテクチャーの存在がある。
個別取材に応えてくれた、ティム・マッキンタイア氏(Teradata エンジニアリング担当シニアバイスプレジデント)は「テラデータの超並列アーキテクチャは、大規模アプリケーションを効率よく実行するために設計された」と説明。Vantage環境に閉じることなく、データの準備からモデル構築、トレーニング、スコアリング、デプロイまでを1つのプラットフォーム上で完結できるため、データの移動が少なくなり、コスト抑制にもつながるという。この独自アーキテクチャがあるために、マルチ/ハイブリッドクラウド環境でも意識することなくインフラを支えられており、データレイクを提供するクラウドネイティブな他社との熾烈な競争を勝ち抜くための武器にもなっている。
「日本の顧客にとっては、クラウドやオンプレミス、マルチクラウドのいずれの環境でもアプリケーションを実行できる柔軟性にこそ価値がある」と、日本企業と対話を重ねてきた経験からマッキンタイア氏は話す。先述したように、テラデータを導入している企業の多くは金融サービス業だ。米国の大手金融サービス企業の中にも、さまざまな理由からオンプレミス環境を維持しているところは少なくない。Vantageの良いところは、オンプレミス環境で利用していたClearScape Analyticsの機能を、クラウドへの移行中、そして移行後にも利用できることだ。
オンプレミス環境でClearScape Analyticsを利用している金融機関では、Hugging Faceからオープンなモデルを持ち込み、リスク分析を行っている。また、とある世界最大のヘルスケア企業も、同様にHugging Faceからのモデルをオンプレミス環境に持ち込み、サービス提供できているという。