PowerPoint Copilotの概要(≒課題)
続いて、PowerPoint Copilotについて見ていきましょう。PowerPointは複雑な論理や説明を、図示することによって直感的にわかりやすく表現できるのが醍醐味のツールです。その作業は大きく以下の2つに分類されます。
- 新規スライドの作成
- 既存スライドの読み取り・編集
結論として、冒頭でもお伝えしましたが、PowerPoint Copilotは上記の2つの作業をどちらも十分にサポートできず、人間が自身で行ったほうが効率的かつ質も高いため、その有用性はExcelのCopilotと同様に非常に低いと言えます。具体的にどの部分が不十分であるのか、実際の例を用いながら作業別に詳しく見ていきましょう。
1. 新規スライドの作成
まずは新規スライドの作成についてです。PowerPoint Copilotは新規スライドの作成をサポートしてくれますが、スライド作成方法には以下の2つがあります。
- A. ファイルを読み込んで作成する方法
- B. プロンプトで作成する方法
それでは、AとBで作成方法がどのように異なっているのか実際に見ていきましょう。
A. ファイルを読み込んで作成する方法
まずは、ファイルを読み込む方法で作成してみましょう。香水のポップアップ企画のスライド構成案を整理したWordファイルを元にスライドを作成してもらいます。資料の構成案を記したWordファイルを画面右側のPowerPoint Copilotとのチャット欄に添付の上、「プレゼンテーション資料を作成してください」という指示を出したところ、複数スライドを自動生成してくれました。
それではPowerPoint Copilotが作成してくれたスライドのうち、目的とターゲットの説明が書かれたスライドを確認してみましょう。
たしかにWordファイルの情報を正しく読み取った上でスライドを作成してくれてはいます。しかし、以下のような課題があり、これでは価値のあるスライド(読みたくなる・もっと聞きたくなる・使いまわしたくなるスライド)にはなっていません。
- 関係のない画像や情報などが書かれており、ノイズが多い
- オブジェクトを適切に用いて複雑な論理や説明を図示してくれるとPowerPointで文書を作っている意味があるが、要素を箇条書きで記載しているだけ
- そもそものスライドのデザインがイマイチなため、タイトルが3行にまたがることになり、読みづらい
そのまま会議などに使えるレベルからはほど遠く、結局PowerPoint Copilotが作成したすべてのスライドを修正する必要が出てきます。こうしてPowerPoint Copilotに任せてみると、人間はけっこう複雑なことをやっているのだな、と実感できます。
B. プロンプトで作成する方法
次に、プロンプトの指示を元に作成してみましょう。こちらの方法では、以下の特徴と制限があります。
- 特徴:プロンプトに従ってPowerPoint Copilotがストーリーを提案してくれた後、自身でストーリーを並び替えてスライド作成を開始することができる
- 制限:プロンプトは最大2,000文字
今回は上記の特徴と制限を踏まえて、先ほど使用した香水のポップアップ企画のスライド構成案を整理したWordファイルの情報をすべてコピーし、プロンプトとしてPowerPoint Copilotに貼り付けしました。すると、資料のストーリーラインと各スライドの概要を出力してくれました。この段階でストーリーの並び替えを行うことができます。
ストーリーラインが出来上がったら「スライドを生成」ボタンを押してみましょう。すると、ストーリーラインに則ってスライドを生成してくれました。「A. ファイルを読み込んで作る方法」に比べると、挿入される画像が文脈とあっていたり、デザイン性が上がっていたりするようですが、それでも価値のあるスライド(読みたくなる・もっと聞きたくなる・使いまわしたくなるスライド)とは言えず、現在のPowerPoint Copilotでは、A・Bどちらの方法でスライドを生成しても、結局すべてのスライドを人間が修正する必要があります。
2. 既存のスライドの読み取り・編集
次に既存スライドの読み取り・編集についてです。PowerPoint Copilotは既存スライドを読み取ってスライドに対する要約や質疑応答をサポートしてくれます。今回は「オブジェクトと矢印でタスクA〜Eの順序や依存関係を示したスライド」を読み込んでもらい、タスクの順番を教えてもらいましょう。
たとえば、「スライドの情報を読み取りタスクの順番を教えてください」とPowerPoint Copilotに指示をしてみましょう。すると、スライドで示している順序とはまったく違う順序が示されました。矢印などで示した順序や依存関係を読み取ることができておらず、通常人間であればパッと読んで理解できるオブジェクトの論理的関係を理解できていません。
では、「なぜこんなわかりやすい資料ですら読めないのか?」を詳細に調査してみたところ、以下のことがわかっています。
- スライド内のオブジェクトに書かれている文字しか読んでおらず、オブジェクトの種類や色、サイズ、文字の色や太字/細字、フォントの種類やサイズなどの情報は読み取れない
- オブジェクトの距離や順番などの論理的な関係性は一切見ておらず、オブジェクトが作成された順番で読んでいるだけ
これでは、実質スライドを読んでいないのと同様であり、要約や質疑応答機能は一切意味を持ちえません。スライドの作成・読み取りは、人間が行ったほうがはるかに効率的で質も高いです。
なお、筆者の所属するDIK&Companyでは、「生成AIのポテンシャルを最大化するデータの持ち方・使い方(セルフデータマネジメント)」を継続的に研究しています。その研究では、PowerPointをPowerPointのまま生成AIに渡すのではなく、一度画像に変換をしてから読み取りをしてもらうと、人間同等の読み取り精度になることがわかっています。要は上記の課題をすべて克服し、オブジェクト同士の論理的関係性や細かい書式(色や太字/細い、大きさなど)の違いを理解してスライドを読み取ってくれるのです。いずれは、この精度をPowerPoint Copilotもたたき出せるようになることでしょう。そうなった場合、ビジネスワーカーの生産性がまた1つ高くなりますね。
Copilotを用いた、ドキュメンテーションのベストプラクティス
ここまでPowerPoint Copilotの有用性が非常に低く、スライドの作成や読み取りは人間が行ったほうがはるかに生産性は高いことを示しました。ここからは、生成AIをドキュメンテーション業務の中に組み込む場合、どのように使用するべきであるのかをご紹介します。
結論としては、ドキュメンテーションにおいては、「情報収集や整理、下書きなどをCopilotチャットやWord Copilotに行ってもらったうえで、実際の資料作成は人間が手を動かして行う」形が最も生産性が高いでしょう。各種Copilotを使用してドキュメンテーションを行う場合の詳細な流れは以下のようになります。
- Copilotチャット:インターネット、OneDrive上の情報や他アプリの情報を探索・整理し、PowerPoint資料のドキュメンテーション設計書のインプット情報を整理
- Word Copilot:Copilotチャットで整理したインプット情報を元に、PowerPoint資料のドキュメンテーション設計書を作成
- PowerPoint Copilot:Word形式のドキュメンテーション設計書をインプットにタイトルとメッセージラインを作成
- 人間:PowerPointにてボディを作成し、ドキュメンテーションを最終化
おわりに
第5回「Excel Copilot/PowerPoint Copilot編」はいかがだったでしょうか。今回はExcel Copilot/PowerPoint Copilotの機能概要と、課題をお伝えしました。次回はいよいよ最終回となります。次回は「Copilotと共にドキュメンテーション(資料作成)を進めていく際の詳細な手順」と「Copilotの最新機能の中で特に注目すべき、自分/自社専用のCopilotを作成できるCopilot Studio」について紹介・解説していきます。次回も、ぜひ楽しみにしていてください。