「能動的サイバー防御で日本は“蚊帳の外”」名和利男氏、新井悠氏、辻伸弘氏が示す官民連携への道筋
民間企業も他人事ではない? 4つの課題と今すぐできる対策

現在、日本の安全保障をサイバー空間からも確実なものにしていくため、「能動的サイバー防御(アクティブサイバーディフェンス)」の導入に向けた議論が官民一体で進められている。欧米主要国と同等以上の対応が目標に掲げられているものの、 通信の秘密、コスト負担、人材不足など、課題は山積みだ。それらの課題にどう対応し、日本はどこに向かっていくべきなのか。今回は、NTTデータグループの新井悠氏、サイバーディフェンス研究所の名和利男氏、SBテクノロジーの辻伸弘氏の3名が官民連携の重要性や経産省ガイドラインの活用法を議論。企業が今すぐ取るべき対策から、日本のサイバーセキュリティ戦略の未来まで、多角的に検証する。
回復力か積極防御か? 各国の戦略と日本の立ち位置
辻伸弘氏(以下、辻):平時からのサイバー攻撃に国として備えるべく、「サイバー安全保障分野での対応能力の向上に向けた有識者会議」にて議論が進められています。私もこの有識者会議にメンバーとして参加しています。大きな論点として議事資料に挙げられているものが「官民連携の強化」「通信情報の活用」「アクセス・無害化措置」の3つです。今日はこの論点を踏まえて3人で議論したいと思います。まず名和さんから、能動的サイバー防御を取り巻く各国の状況についてお話しいただけますか。
名和利男氏(以下、名和):そもそも「サイバーディフェンス」という概念が注目され始めた時期は、民間では2011年です。特にアメリカとイギリスで大きな議論の変化があり、2015年頃から本格的に法令化が進みました。当初はこれを軍が行うのか、民間の国家サイバーセキュリティ機関が行うのかという議論がありましたが、2017年頃から国家の機関が行うこととなり、民間機関にも適用されるようになりました。
サイバーディフェンスの技術は、紛争時に展開するものといった思想が強かったのですが、最近では平時に使用することも可能という解釈が広まっています。「サイバー空間は常に戦争状態である」という概念が前提としてあり、戦争状態の中に平時があるといった解釈をもっているのです。この考え方はアメリカから広まり、ヨーロッパ各国も同じ解釈をもっています。こうした中で、「コンピューターネットワークオペレーション」「アクティブサイバーディフェンス」「非アクティブサイバーディフェンス」といったサイバーディフェンス技術が政策オプションとしてあります。

図1:サイバーディフェンス技術の分類
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各国の対応状況を見ると、多くの国が攻撃を完全に防ぐことは難しいという前提に立ち、攻撃を受けた後の迅速な復旧と事業継続性の確保に重点を置く「回復力のあるサイバーディフェンス」を採用しています。特にEU、エストニア、オーストラリアがこの考え方に近いですね。これらの国々は、経済や軍事、インフラなど様々な面で相互依存関係にあるため、単独で防御を強化するよりも、連携した国々全体で回復力を高める方針をとっています。
一方、イギリスはより積極的な防御姿勢を取るアクティブサイバーディフェンスの立場を取っています。ドイツは従来の防御を強化していく「強化されたサイバーディフェンス」の立場です。そしてアメリカだけが、「回復力のあるサイバーディフェンス」「強化されたサイバーディフェンス」「アクティブサイバーディフェンス」の3つの側面をもっています。

辻:アクティブサイバーディフェンスは、日本では「能動的サイバー防御」と和訳されますね。日本のサイバーディフェンスが今目指している姿は、この図2のベン図ではどのあたりになりますか?
名和:公開情報を見る限りでは、イギリスが採るアクティブサイバーディフェンスや、アメリカの政策に近づこうとしているように見えますが、現場の実感としてはこの円の外にいる印象です。

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辻:真ん中のすべてを担うアメリカを目指しつつも、まだ円の外なんですね。私もこの有識者会議のメンバーなので、もう少し頑張って発言しなければと思います(笑)。
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京部康男 (編集部)(キョウベヤスオ)
ライター兼エディター。翔泳社EnterpriseZineには業務委託として関わる。翔泳社在籍時には各種イベントの立ち上げやメディア、書籍、イベントに関わってきた。現在はフリーランスとして、エンタープライズIT、行政情報IT関連、企業のWeb記事作成、企業出版支援などを行う。Mail : k...
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