カギは現場に“デジタルの成功体験”を増やすこと
SUBARUでは品質領域、販売促進領域、製造領域(工場デジタル化)など様々な領域でデータマネジメントの効果が見られる中、野口氏は製造領域について言及した。これまで製造現場のペイントやトリム(クルマに部品を取り付けること)工程における不具合の手直しを行う際には、「紙のほうが早い」とその記録を紙に記すことも多かった。手書きの記録は後からPCに転記するため、結果が展開されるのは翌日以降で、転記漏れなどでデータ精度にも課題があったという。そこで、記録作業をタブレットに入力するように統一したところ、タイムリーに品質情報を共有できるようになったのだ。
野口氏は「この例はいわゆるデジタル化ですが、これによって作業の品質レベルを上げると同時に、修正スパンを早めることで各工程での作業レベルを上げることにもつながっています」と効果を示す。その結果、どこにどのような問題があったか調査・分析する時間を50%も短縮でき、転記漏れによる情報伝達ロスもなくなった。「最終的には工場から出荷するクルマの品質を向上させる取り組みにつなげることができました」と話す。
この事例を受け、吉村氏は「従来の作業方法を変えることに対して現場から反対の声も上がったと思いますが、現場とどうコミュニケーションをとって進めていったのでしょうか」と野口氏に尋ねた。
この問いに対しては野口氏も「デジタル化で最初につまずくのが現場からの『なぜ変える必要があるのか』ですよね」と吉村氏に同意を示す。紙に入力するほうが楽なものもある一方で、データ化されることで紙以上にメリットを享受できる体験をすると、「なるほど。デジタル化にも意味があるのか」と現場にも理解が広がってくる。そのためにSUBARUはPoCのトライアルを進めているところだという。
たとえば、製造の最終工程でクルマの品質が基準に達しておらずNGとなってしまうケースがある。この原因について、人的なミス以外の環境による要因など様々な情報をデータで取得できるようになった。これにより、様々な要因を掛け合わせて分析した結果を現場に伝えることで、作業者は「この問題は自分のせいだけではなく、こういう原因もあったのか」と新たな発見につながることもあるという。
金融・製造・エンタメの異業種に見えてきた共通項
続いて、吉村氏がバンダイナムコグループにおける広告宣伝費に関するデータ活用施策について説明した。同社では多様な広告媒体に広告を出稿しており、広告媒体ごとに特性が異なるため、投入する広告予算に最適な組み合わせを見つけるのが難しかったという。たとえば、ある媒体では費用対効果は高いものの効果に上限があり、別の媒体では投資額に応じて効果が大きくなるといった問題が起きていた。
そこで、広告媒体ごとの特性をデータで可視化することで、予算額に応じた適切な配分を分かりやすくしたという。「これまでは予算に応じた広告の配分が難しかったのですが、この取り組みによって可視化されたデータを見るだけで配分ができるようになりました」と費用対効果の向上を示した。
最後に、それぞれ一言ずつメッセージを述べた。新田氏は「データマネジメント活動で各部門を巻き込んで議論を進めていく中で、『この課題に対して強い思いを持つ社員がこれほどにも多かったのか』と社員の思いを実感しました。こうした取り組みは中長期的なものですので、人も予算も必要です。使命感を持つ方を多く巻き込み、会社全体で重要な課題として昇華させていくことが必要だと考えています」と全社で取り組む重要性を強調した。
続けて野口氏は「新田さんとまったく同じ思いです。経営層や現場を含めすべてのステークホルダーを巻き込む必要があります。そこに加えてガバナンスも難しい課題です。SUBARUではDMBOK2を参考にしていますが、皆さんも何かリファレンスを持ち、中長期的な視点で一つひとつクリアしていくと良いのではないでしょうか」とアドバイスする。
吉村氏は「今回は金融、製造、エンタメとまったく違う業態におけるリーダーの対談でしたが、データマネジメントの軸を通じて共通項や新たな発見があったように思います。今回の講演をヒントに皆さんもデータマネジメントに励んでいただければ幸いです」と述べ、講演を締めくくった。