データ集約プロセスから変革したSUBARU、その方法とは
SUBARUでもデータのサイロ化が課題の根底にあったものの、「まずはデータをしっかり集めていこう」と会社全体でベクトルを合わせるところからスタートした。ただ集めるのではなく、車両識別番号(VIN)をキーとして部品の品番を組み合わせ、車両の製造・販売をトレースできるようにデータを整備していく。さらにVINに顧客IDも組み合わせることで、販売後のメンテナンスも含めて商品価値を高めていこうと考えたと野口氏。これをSUBARUではプロセス改革運動として「グローバルPLM」と呼んでいる。
野口氏は「データは束ねて他と連携することで価値が上がっていきます」とし、相乗効果的な価値向上を目指していることを示す。そのために、データ基盤の整備では企業活動の基礎となるデータの蓄積、連携基盤(ETLツール)、データ利活用環境(BIツール)、データガバナンスを柱に進めているという。
なかでも最重要なものとして位置づけているのがデータガバナンスだ。これには、データ全体をコントロールする標準や品質などのルール整備、知的財産保護、安心してデータを流通・利活用するためのトラストの枠組みなどが該当する。ガバナンスの基本方針は「DMBOKデータマネジメント知識体系ガイド(第二版)」(以下、DMBOK2)に準拠する形で整備している。
あわせてメタデータ管理を徹底することで、データの状態を可視化できるようにしたと野口氏。これはデータの辞書やカタログとも言い換えられる。それぞれのデータの意味や定義を定め、データ利用者が「このデータはどこから発生したどのようなデータか」が分かるように整備している。
こうしたデータマネジメントの価値や必要性は理解されやすいものの、実際に行動に移すとなれば人的コストやシステム導入コストが少なからず発生する。経営層に活動の価値や効果を説明し、理解を得る必要があるだろう。
バンダイナムコネクサスの吉村武氏は「データマネジメントを担う立場では効果を確信していますが『いくら儲かるの?』と問われると『まずは基盤を整備してからでないと……』と答えにくいところです。投資判断を促すところは苦労しているのではないでしょうか」と野口氏、新田氏に問いかける。
野口氏はこれを受け、「SUBARUもそこはとても苦労しました」とした上で、「投資判断に寄与する情報はなかなか集められないのですが、業務部門でシステムが散在し、膨大な工数がかかっているなど“ムダ”が生じている部分を伝えるようにしました。それをなくすだけでも大きな効率化につながることを説明し、将来的にはデータを連携することで費用対効果が得られるとして、賛同を得て進めていきました」と説明する。
新田氏は「データのサイロ化によって膨大な人的コストが発生していることを定量的に可視化する必要があると思ったので、大規模な全社アンケートを実施しました。この結果、データの準備・分析・レポーティング業務のうち、準備の部分に全体の業務の6割が割かれており、業務の中身を見てみると、皆で同じ作業を繰り返している非効率な部分が多くあることが分かりました」と話す。
無駄なデータ探索時間を8割も削減?みずほの成果
最後のテーマとして、アプローチの結果どのような好事例が生まれたのかについても紹介された。新田氏は「まだデータマネジメントの取り組みをスタートして間もないので、現状では先ほどお話ししたように何が問題かを共有し、どういう対応をすれば解消していけるのかをPoC的に進めているところです」と前置きしたうえで、取り組みの例として、データ辞書(カタログ)の整備を挙げた。
これまでユーザーが何らかのデータ分析を行う際、どのデータが使えるのか調べることに時間がかかっていたという。データ辞書自体は従来からあるものの使いづらく、社内掲示板などの内部資料から自力で検索するか、有識者や問い合わせ窓口に照会する必要があったのだ。
そこで、社員が頻繁に使うデータに関して辞書を使いやすいように改善し、試験的に運用してみたところ、ユースケーズによっては調査時間をおよそ8割も削減できたという。「これまでは担当部署から回答が返ってくるのを待つだけで数日かかるものもありましたが、それがものの10~20分で終わるようになりました。相当な人的作業負担の軽減につながったと思います」と新田氏。こうした効率化の成果を経営陣に効果として示しているという。