コストが右肩上がりも「原因がイマイチわからない」
クラウドに移行する企業が増えている中、想像以上に運用に手間がかかったり、コストが削減できなかったりと頭を悩ませている担当者は少なくない。特に2022年頃からは米国の金利政策などが影響し、円安が進行。Microsoft AzureやAWS(Amazon Web Services)、Google Cloudなど、主要パブリッククラウドベンダーを利用しているユーザーにとって、ドル建てによる利用料金の高騰は深刻である。そうした背景もあり、注目を集めているのが「FinOps」という、コストを最適化しつつ“クラウドの価値”を最大化しようとするアプローチだ。
米国などを中心に「FinOps Foundation」などの非営利団体が活動を活発化させており、日本でも2024年11月には日本支部となるFinOps Foundation Japan Chapterが設立された。まさに2025年からは、FinOpsの波が拡大していくことが予見される。とはいえ、クラウドコストの最適化からはじまり、ビジネスに寄与する形で利益を最大化していくというFinOpsの目標を達成することは簡単ではない。そのためのリファレンスも限られており、個社ごとに置かれているシステムやビジネスの状況も異なるため、各社が試行錯誤している。
そしてゼロからFinOpsに挑んでいる企業の1社が、リクルートだ。「Google Cloudを利用する中、データが整ってきて不要なものまで蓄積されているような状況になっていました。また、円安によって料金改定もあったため、あらためて無駄な部分を把握しておきたいという認識がチーム内で広がっていきました」と話すのは、同社 プロダクト統括本部の後藤直央氏。同氏が所属するのは、リクルートが提供するオンライン学習サービス「スタディサプリ」など、“まなび(学び)”にかかわるプロダクトのデータ部門「まなびデータソリューション部」だ。
同部では、データ基盤などにGoogle Cloudを利用しており、コロナ禍を契機としたオンライン学習需要の増加などもあったため、度々コストの増加を感じていたという。また、BigQueryのデータをLookerで可視化することによって、利用状況をモニタリングしてコストが“右肩上がり”の状況であることは認識していたものの対策を講じることが難しい状態だった。同部 宮﨑悠樹氏は、「Lookerのダッシュボードは体系立てて設計されておらず、コストに関係しそうな要素を並べただけのものでした。そもそも事業成長にともなう増加なのか、最適化の余地があるものなのか。そうした判断が難しい状況でした」と振り返る。
こうした課題に直面した2023年頃、ちょうど外部の勉強会などでもFinOpsが扱われることが増え、チームにも挑戦への機運が高まっていたという。先行している他社事例、FinOps Foundationによるフレームワークなどを参照した上で、まずは全体を俯瞰するためのダッシュボード構築から着手。データセットごとのストレージ料金、タスクごとのクエリにともなう利用料金などを確認することを目指した。
実際に構築をはじめて約3ヵ月で、全体のコストを可視化できるダッシュボードを構築。その上でBigQueryやCloud Storageなど、サービスごとに詳しく見たい場合には、アカウントやストレージの種別ごとにドリルダウンできるように工夫を加えていった。
「これまで、何となくコストが上がっているのは把握できても、その要因まで特定できませんでした。しかし、新しいダッシュボードでは『このテーブルの料金は上がっているが、利用方法は変わっているのか』など、具体的な議論に結びつけられるようになりました」と同部 吉田駿哉氏。複数サービスの利用状況をグラフにすることで、1日あたりどれだけの費用が発生しているのか、どこの利用料が増えているのかを把握できるようになった。
実際にBigQueryでのクエリが半分以上を占めることが判明し、そこを最適化することこそが近道になると判断できたという。