DNPは「P&I」(印刷と情報)を軸に、出版関連事業やエレクトロニクス事業など8つの多様な事業を展開している。そのなかで、印刷技術を核として手掛けているのが、リアルとバーチャルを連動させる「XRコミュニケーション」だ。1990年代から制作に取り組み始め、2021年にコミュニケーション事業を開始している。同社 XRコミュニケーション事業開発ユニット ビジネス推進部 企画第1グループ リーダー 山川祐吾氏は「DNPがなぜと思われるかもしれないが、あくまで印刷事業の延長線」と強調した。
XRコミュニケーションの取り組みは大きく2つある。メタバース役所をはじめとした「地域連動XRサービス」のほかに、「企業向けXRマーケティング」では生活者向けのイベントやセミナー、社員向けイベントも行っているという。
今回体験したメタバース役所のサービスは2024年7月に発表したもの。市民交流の場や個別相談対応、電子申請サポートの3つの機能を提供している。子育て、介護、福祉関連の相談や、職員採用における交流会などに活用されているという。今後は、メンタルヘルスやダイバーシティ関連、離婚関連などセンシティブな相談対応への拡大を検討している。
メタバース導入を進める自治体からは、「時間、物理的、心理的障壁を除去して、行政サービスを利用しやすくすることに期待いただいていることが多い」と山川氏は話す。実際に、アバターでのコミュニケーションは素の自分を出しやすいという研究結果が出ているという。実証実験を行った自治体では、「『電話よりハードルが低く、気軽に相談できた』などの反応があり、メタバースに期待された効果が実際に確認できた」と山川氏は振り返った。単独での利用のほか、物理的に離れた自治体住民との広域連携や災害時のBCP対策を目的に、複数自治体での利用も検証している。共同調達により、運用負荷の軽減にもつながるという。
今後、DNPが提供する自治体サービスと組み合わせることで、さらなる住民満足度向上や業務負荷軽減を目指していく考えだ。具体的に、AI活用やマイナンバーカード認証、電子申請、BPO、BPRによる業務支援を検討しているという。
なお、著者は今回、クマのアバターで参加。「いいね」や「敬礼」「拍手」「ガッツポーズ」など多様なリアクションが用意されているほか、選択したアバターでメタバース空間を自由に動きまわれる。秘匿性の高い個別相談のブースは、外部から投影資料や会話が聞こえないようにする機能も搭載されていた。当初、メタバースの操作に慣れておらず、最初は視界の調整や動きに戸惑いもあったが、いろいろな動きを試してみるうちに、アバターを“分身”のように感じられるように。オンライン会議や電話とは違う、安心感があり、利用者としてメタバース役所を使ってみたいと感じた。仕事などで来庁が難しい方や、交通事情などで相談に行きづらい方にとって、利便性を改善するサービスとして多くの自治体で実装されていくことに期待したい。