及川卓也氏×横道稔氏が語る、「なんちゃってDX」に陥りがちな日本企業でリーダーが取るべき姿勢とは
外部登用されたIT人材を「お手並み拝見」する悪しき文化を解体できるか

2024年9月、及川卓也氏による『ソフトウェアファースト第2版 あらゆるビジネスを一変させる最強戦略』(日経BP)と、横道稔氏が翻訳した『TRANSFORMED イノベーションを起こし真のDXへと導くプロダクトモデル』(日本能率協会マネジメントセンター)が刊行された。いずれも、プロダクトマネジメントの観点から日本企業の変革に向けたヒントをまとめた書籍である。2024年11月7日には、刊行を記念した及川氏と横道氏の対談イベントが、パーソルイノベーション(TECH PLAY)主催で開催された。今回は、両者が対談を通して、なぜ今プロダクトマネジメントなのか、そして真のDXを実現するためのヒントとは何か、といった点を解説する。
企業の中心に「プロダクト」を置くことからDXは始まる
2024年9月に『ソフトウェアファースト』の第2版を刊行した及川氏。IT業界で30年以上活動している同氏のキャリアのスタートは、日本 ディジタル イクイップメント(日本DEC)だった。そこからMicrosoftやGoogleなど、名だたる外資系IT企業を経験し、独立。現在は、ソフトウェアエンジニアなどの経験を生かし、プロダクトづくりや人材育成の支援を行っている。
及川氏は第2版について、「第1版と主張は大きく変わっていない」と語り、「企業がITを活用しきれていないのが、日本の産業や経済が衰退している大きな原因」だと続ける。今回も継続して訴えるのは、DXの進展で大きく重要性を増すソフトウェアを武器にして、いかに事業価値や顧客体験を向上させるプロダクトを生み出すか、だ。中でも、プロダクトマネジメントについての内容を補強したという。
同じく、プロダクトマネジメントに関する書籍が『TRANSFORMED イノベーションを起こし真のDXへと導くプロダクトモデル』だ。シリコンバレーでプロダクトマネジメントのバイブルとされる『INSPIRED』の著者、マーティー・ケイガン氏による書籍を横道氏が翻訳し、『ソフトウェアファースト』の第2版と同じく9月に発売となった。その内容について、横道氏は以下のように説明する。
「『INSPIRED』はプロダクトマネジャー向けの側面が強かったのですが、今回の『TRANSFORMED』はそこから対象を広げ、企業全体としてプロダクトをいかに良くしていくかに焦点を当てています。そのための変革にはどんな原則があるのか、どのような戦略・戦術を用いるべきかをまとめており、シリコンバレーにとどまらないグローバルでの事例が豊富な点も特徴です」(横道氏)

両書籍とも、プロダクトを企業の運営モデルの中心に置く「プロダクトマネジメント」からDXを推し進めていくことがテーマになっている。そう聞くと、プロダクトを作っていない企業には関係ないのではと感じる人がいるかもしれないが、この点について両者は明確に否定する。
「一般企業にプロダクトマネジメントの重要性を説いても『うちは製品(プロダクト)を作っていないから』と他人事に捉えられてしまうケースは少なくないが、実はプロダクトに明確な定義はない」と及川氏。同氏は、プロダクトを「市場で取引される、個人や団体などの何らかのニーズを満たすもの」と捉えており、たとえば、社内システムなど、収益を直接的には生み出さないものもプロダクトに含まれると説明した。
横道氏も、「アジャイルという概念がソフトウェア開発の考え方からビジネス、学校教育などに広く浸透する考え方へと変化していったように、プロダクトマネジメントも物理的な商品に立場を限定する必要はない」と指摘。また、DXとプロダクトマネジメントには類似性があると語る。
「将来あるべき会社の姿を描き、そこに対してどんな手段があるかを仮説として考える。さらに、採用した手段がどのような結果を出したのか計測して、思い通りでなければ仮説を検証して、あるいは仮説をピボットさせながら、思い描いた状況に近付けていく。こういったDXの考え方はまさに、プロダクトマネジメントと共通しています。そうした意味で、プロダクトマネジメントの重要性はこれまで以上に高まっているといえるでしょう」(横道氏)
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鬼頭 勇大(キトウ ユウダイ)
フリーライター・編集者。熱狂的カープファン。ビジネス系書籍編集、健保組合事務職、ビジネス系ウェブメディア副編集長を経て独立。飲食系から働き方、エンタープライズITまでビジネス全般にわたる幅広い領域の取材経験がある。
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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