企業の中心に「プロダクト」を置くことからDXは始まる
2024年9月に『ソフトウェアファースト』の第2版を刊行した及川氏。IT業界で30年以上活動している同氏のキャリアのスタートは、日本 ディジタル イクイップメント(日本DEC)だった。そこからMicrosoftやGoogleなど、名だたる外資系IT企業を経験し、独立。現在は、ソフトウェアエンジニアなどの経験を生かし、プロダクトづくりや人材育成の支援を行っている。
及川氏は第2版について、「第1版と主張は大きく変わっていない」と語り、「企業がITを活用しきれていないのが、日本の産業や経済が衰退している大きな原因」だと続ける。今回も継続して訴えるのは、DXの進展で大きく重要性を増すソフトウェアを武器にして、いかに事業価値や顧客体験を向上させるプロダクトを生み出すか、だ。中でも、プロダクトマネジメントについての内容を補強したという。
同じく、プロダクトマネジメントに関する書籍が『TRANSFORMED イノベーションを起こし真のDXへと導くプロダクトモデル』だ。シリコンバレーでプロダクトマネジメントのバイブルとされる『INSPIRED』の著者、マーティー・ケイガン氏による書籍を横道氏が翻訳し、『ソフトウェアファースト』の第2版と同じく9月に発売となった。その内容について、横道氏は以下のように説明する。
「『INSPIRED』はプロダクトマネジャー向けの側面が強かったのですが、今回の『TRANSFORMED』はそこから対象を広げ、企業全体としてプロダクトをいかに良くしていくかに焦点を当てています。そのための変革にはどんな原則があるのか、どのような戦略・戦術を用いるべきかをまとめており、シリコンバレーにとどまらないグローバルでの事例が豊富な点も特徴です」(横道氏)
両書籍とも、プロダクトを企業の運営モデルの中心に置く「プロダクトマネジメント」からDXを推し進めていくことがテーマになっている。そう聞くと、プロダクトを作っていない企業には関係ないのではと感じる人がいるかもしれないが、この点について両者は明確に否定する。
「一般企業にプロダクトマネジメントの重要性を説いても『うちは製品(プロダクト)を作っていないから』と他人事に捉えられてしまうケースは少なくないが、実はプロダクトに明確な定義はない」と及川氏。同氏は、プロダクトを「市場で取引される、個人や団体などの何らかのニーズを満たすもの」と捉えており、たとえば、社内システムなど、収益を直接的には生み出さないものもプロダクトに含まれると説明した。
横道氏も、「アジャイルという概念がソフトウェア開発の考え方からビジネス、学校教育などに広く浸透する考え方へと変化していったように、プロダクトマネジメントも物理的な商品に立場を限定する必要はない」と指摘。また、DXとプロダクトマネジメントには類似性があると語る。
「将来あるべき会社の姿を描き、そこに対してどんな手段があるかを仮説として考える。さらに、採用した手段がどのような結果を出したのか計測して、思い通りでなければ仮説を検証して、あるいは仮説をピボットさせながら、思い描いた状況に近付けていく。こういったDXの考え方はまさに、プロダクトマネジメントと共通しています。そうした意味で、プロダクトマネジメントの重要性はこれまで以上に高まっているといえるでしょう」(横道氏)