Salesforce:Agentforceの導入を全力で推進
2024年後半から耳にする機会が増えたエージェントAIについて、単なるチャットボットのAIエージェントと混同している向きもあるが、エージェントAIの最大のポイントは、タスクを割り振られたエージェントが「自律的」に意思決定を行い、アクションを実行できるという点で既存のチャットボットとは大きく異なる。たとえば「顧客からの問い合わせに対して適切な回答を返し、場合によっては返金処理や在庫確認を行う」「金融機関のトランザクションデータをリアルタイムで監視し、異常なパターンを検出したら、当該の取引を自動で停止し、人間の担当者にエスカレーションする」などが具体的なユースケースだ。また、医療現場や物流システム、災害対応現場など、人的リソースが限られている現場では、異なる能力をもつ複数のエージェントが連携するマルチエージェントシステムへの関心も高い。
エージェントAIというコンセプト自体は特に目新しいものではなく、アカデミックの世界やスタートアップの間では1年ほど前から様々な動きが見られていたが、エンタープライズITの世界でエージェントAIへの注目度が高まる大きなきっかけとなったのが、Salesforceが9月にローンチしたエージェントAIプラットフォーム「Agentforce」である。
Agentforceには顧客サポートや営業/マーケティング支援などそれぞれの役割に特化したエージェントと、エージェントをローコードでビルド・カスタマイズするツールセットが含まれている。エージェントは、SlackやData Cloudなどを含むSalesforceの既存ポートフォリオや、Snowflakeなど連携するサードパーティプラットフォームを横断し、顧客サポートや営業/マーケティング支援を自律的に行う。既にDisneyやOpenTableなど、北米の企業を中心に顧客サポートや需要予測の現場でAgentforceが導入されている。
Salesforceのような外資系IT企業のプロダクトは、北米市場での展開から半年~1年後くらいに日本でも提供開始のアナウンスが行われるのが通常だが、ことAIに関してはビジネスのスピードが大きく異なるようだ。日本法人のセールスフォース・ジャパンは10月18日、Agentforceの国内提供を10月30日から開始することを発表した[1]。9月の年次カンファレンス「Dreamforce」でのローンチからわずか1ヵ月で、日本市場向けにAgentforceをローカライズし、一般提供開始(GA)にこぎつけたのである。
もちろん、現時点ではすべてのエージェントや機能が準備できているわけではない(今回のリリースで含まれるAIエージェントは顧客サポートを行う「Agentforce Service Agent」)が、北米市場とほとんど変わらないタイミングで日本の顧客にAgentforceの提供を開始したことは、AgentforceがSalesforceにとっての新しいフラグシッププロダクトになったことを意味している。筆者は9月に現地でDreamforceを取材した際、同社のあるエグゼクティブから「日本市場での(Agentforceの)ローンチスケジュールは、10月以降に話せるレベルになるだろう」と聞いていた。しかし実際には、10月に日本市場でのGAを果たすことになり、開発はもとより、営業やマーケティングも含め、企業として相当なリソースをAgentforceに注ぎ込んでいることがうかがえる。
セールスフォース・ジャパン 専務執行役員 製品統括本部 統括本部長 三戸篤氏は「外資系テクノロジーベンダーの日本法人にとって、ローカライズは常に大きなハードルだが、AIの進化のスピードに追いつくには我々の意識も変わっていく必要がある。これからもよりスピーディな開発を心がけたい」とコメントしており、日本企業のAgentforece導入事例を聞くことができる日もそう遠くないかもしれない。
[1] プレスリリース「Salesforce、『Agentforce』の国内提供開始を発表(セールスフォース・ジャパン、2024年10月18日)