生成AI活用とサステナビリティは両立できるのか?
「ChatGPTは、東京から大阪へのフライト321回分と同じ量のCO2を毎日発生させている」──10月に都内で開催された「Gartner IT Sympsium/Xpo 2024」でのセッション「サステナビリティを犠牲にすることなく、生成AIを活用する」において、ガートナージャパン バイスプレジデント アナリスト 桂島航氏は生成AIのエネルギー消費量に関するいくつかの衝撃的な数字を挙げた。
IEA(国際エネルギー機関)の推定によれば、Google検索の1回あたりの電力消費量が平均0.3ワット時であるのに対し、ChatGPTの1回あたりのリクエストはその10倍となる通常約2.9ワット時を消費するといわれているが、世界中の人々が日常的に生成AIを消費するようになった現在、生成AIが消費するエネルギー量は凄まじく、その総量は日を追って増え続けている。5年後、10年後に一体どれほどのエネルギーが生成AIによって消費されるのかを想像したとき、「環境・経済・社会システムを育成し、保護する」というサステナビリティの観点から見て生成AIが非常に危険な存在であることがわかる。その一方で生成AIはビジネスと個人に多大な影響を及ぼし、もはや生成AIを使わないという選択肢を取ることは誰にとっても難しい。
では、生成AIとサステナビリティの両立をはかるために企業は何をすべきなのだろうか。生成AIとサステナビリティの両立に関して、桂島氏は以下の2つの論点から見ていくことが重要だとしている。
AIのサステナビリティへの影響を整理する
生成AIを含むAIは膨大なエネルギーを消費するが、その一方でAIはサステナビリティにメリットももたらしている。たとえば、AIの利用により温室効果ガス排出量は増加するが、スマートグリッドにAIを利用することで電力効率を上げることができる(GoogleはAIを利用してデータセンターの冷却を効率化している)。また、AIを使ったサイバー攻撃が社会問題化する一方で、AIがセキュリティ専門家の分析を支援し、効果的な防御システムの構築に貢献した例も少なくない。桂島氏は「AIのプラスとマイナスの影響を中長期的な視点で考えていくことが重要。コーディングの世界、あるいはCRMやERPといったビジネスアプリケーションの世界は、あと2、3年で生成AIの導入によりがらっと変わることになる」と指摘しており、AIの採用フェーズが進展するにしたがい、AIがもたらすプラスの影響のほうがマイナスよりも大きくなるとしている。
「持続可能なAIは持続可能なITから始まる。そのためにIT部門ができることは多くあり、サステナビリティとともにAIを賢く使っていくという姿勢が企業には求められる。たとえばモデルのトレーニングやチューニング、推論、AIエージェントの活用といったシーンでできるだけ環境や社会に負荷をかけずに実施するアプローチを検討すべき。サステナビリティでどうやって社会に貢献していくかを考えることもIT部門の仕事」(桂島氏)
AIとサステナビリティを両立するために、何をすべきか
企業がAIとサステナビリティの改善に向けて注力すべき分野と推奨事項として、Gartnerは以下を定義している。
- クリーンな再生可能エネルギーの使用:再生可能エネルギーで稼働するデータセンターでAIワークロードを実行する/再生可能エネルギー設備の新設につながる方法で調達する
- エネルギー消費の最小化:エネルギー効率の高いデータセンターを利用する/クラウドのリソース消費を最適化する/AIに最適化されたハードウェアを使用する/データの保存と管理を最適化する
- サステナビリティのための設計:ネットワークトラフィックを最小限に抑える/グリーンソフトウェア設計やそのためのアーキテクチャを用いる
- サステナビリティの運用:大規模なAIプロセスは夜間や休日に実行する/AIモデルのチューニングを最適化する
セッションの最後、桂島氏は「AIを使わないという選択肢を取れる企業はない。だからこそ責任をもって倫理的にAIを利用する」ことの重要性をあらためて強調している。もはや「AIとサステナビリティの両立は可能か」を問う段階ではなく、「AIとサステナビリティを両立させる」ことがすべての企業に求められる時代に入ったといえる。