リソースの最適化:限られた予算内での勝利戦略
F1チームには厳しい予算制限が課せられており、その限られたリソースの中でいかに革新的な技術を開発するかが問われています。2009年、イギリスの小さなチームは、競合他社よりもはるかに少ないリソースで両選手権を制覇しました。彼らの成功は革新的な技術統合から生まれ、複数の機能を統一された効率的なフレームワークに統合したのです。
KPMGの調査によれば、企業の64.5%がサイバーセキュリティ予算は不十分だと回答しています。この状況下で、組織に求められるのは「より多く」ではなく、「よりスマート」なサイバーセキュリティへの投資です。
革新的なレーシングチームが限られたリソースから驚異的な成果を生み出したように、企業も保護と運用効率のバランスを保ちながら、統一的なセキュリティ戦略を採用すべきでしょう。個別のポイントソリューションへの断片的な投資は、冗長なベンダーへの支払いによる財務的負担や、ユーザーエクスペリエンスの低下によるパフォーマンスの低下を招きかねません。

競争優位性:統一プラットフォームの測定可能なメリット
柔軟できめ細やかなゼロトラストを実装する統一されたセキュリティプラットフォームは、成功したレース戦略に似た具体的なメリットをもたらします。
- 運用効率の劇的な向上:フォレスターの調査によると、統合セキュリティサービスエッジ(SSE)プラットフォームを使用する組織では、セキュリティとネットワーク運用において生産性が30%向上しました。これはレーシングチームが何百ものセンサーからのリアルタイムデータ監視を一元管理し、マシンのパフォーマンスを向上させるアプローチと同様です
- 問題解決時間の大幅な短縮:問題解決にかかる時間が50%短縮され、計画外のダウンタイムが15%減少しています。これは、レースでの素早いピットストップに例えられます
- コストを増やさずに改善を実現:SSEへの初期投資は6ヵ月以内に回収され、3年間でROIは109%に達しました。これは初期投資の2倍以上が組織にコスト削減として還元されることを意味します
安全革命:パフォーマンスを犠牲にしない防御
2018年、レーシングカーのデザインは新しい安全技術の追加により劇的に変更されました。この保護システムは破片を偏向させ、頭部の怪我を防ぐよう設計されています。当初、多くのドライバーから「スポーツの美観を損なう」と批判されましたが、結果的に多くの命を救うこととなり、後に「命を救った」「スポーツにもたらされた最も素晴らしい追加」と評価は一変しました。
今日、多くの人々がサイバーセキュリティ対策に対して同様の複雑な感情を抱いています。しかし、適切に設計・実装されれば、安全性とパフォーマンスの両方を向上させることができます。
IBM/Ponemonによると、2024年のデータ侵害における世界平均コストは488万ドルに達し、2023年と比較して10%の増加となり、過去最高額を記録しました。日本企業の76%が信頼性の高いクラウドアプリケーションを通じて毎月マルウェア侵入に直面しており、2024年の職場におけるフィッシングリンクのクリック数は2023年と比較して2倍に増加しています。
組織が直面するリスクは主に2つの要因から生じています。1つ目はクラウドとAI導入による攻撃対象領域の拡大、2つ目はソーシャルエンジニアリング技術の高度化です。2024年の調査結果では、職場でフィッシングリンクが最もクリックされた情報源は検索エンジン(27%)、テクノロジーサイト(23%)、マーケティングプラットフォーム(8.7%)でした。皮肉なことに、ユーザーが安全だと感じるときにこそリスクが最も高まり、ユーザーの感情に関わらず、セキュリティがより重要になるのです。
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栄藤 稔(エトウ ミノル)
Netskope Inc. CxOアドバイザー人工知能(AI)、セキュリティ分野における豊富な経験を持つ栄藤氏の専門知識は、ネットスコープのお客様が現在の脅威環境を踏まえた最新の戦略およびアーキテクチャを形成する上で重要な役割を果たします。栄藤氏はNTTドコモ在職時代に、NTTドコモの全サービスプラ...
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