【LIXIL岩﨑氏×JTB黒田氏】基幹システム刷新“真っ只中”のJTCリーダーに学ぶ、成功への布石
複雑化したシステム構成が足枷に……「結局は人がすること」だから重視する意思疎通
進行中の基幹システム刷新PJでの壁をどう乗り越えたのか?
次のテーマは、基幹システム刷新プロジェクトの進行で直面した壁。基幹システム刷新に限らず、大規模プロジェクトにはトラブルがつきものだが、両社も幾多の困難を乗り越えてきたようだ。
LIXIL:IT主導から事業主導へ
LIXILの基幹刷新プロジェクトは、過去に何度も方針転換やスケジュール延期を繰り返している。原因の一つは推進体制にあったという。
当初はIT部門主導で進めていたが、基幹システム刷新の本質は単なるシステム更新ではなく、企業存続のために業務そのものを変革するプロジェクトだ。IT部門だけではすべての業務プロセスを把握できず、各部門が持つ歴史的経緯や重要な背景を理解するには限界がある。IT部門側が一方的に標準化を求めても、現場からは乱暴な指示と受け取られ、コンフリクトが生じることも少なくない。
そこで同社は段階的に主体者を事業側にシフト。IT部門はITの専門家集団に徹し、最終的には事業部門が決断する体制に変更した。この役割分担の整理により、停滞していた意思決定が徐々に回り始めたという。現在、1つのメインフレームでは20%のプロセスをSAPに移行するなど、着実な成果を上げている。
さらに同社では権限移譲も積極的に推進。国内で170のスクラムチームを組織し、各チームに決定権限を移譲している。岩﨑氏は「リーダー一人に依存するとボトルネックになるため、みんなで早く意思決定できる仕組みが重要」と語る。
LIXIL:業務プロセスの取捨選択
事業主導への転換で見えてきたのは、業務プロセスの取捨選択という新たな壁だった。岩﨑氏は「システム変更は必ずお客さまや社内の業務変更をともなう。ときには企業存続のために、儲からないプロセスを割り切って捨てていかなければならない」と語る。
伝統ある企業には過去の優れたプロセスが多数存在する。それらがあるからこそ今があるのだが、現在の基準では効率的でないプロセスも混在している。そこで同社では5つのステップでプロセスを可視化し、現在と将来の価値を基準に優先順位を決め、大胆に既存の業務やプロセスそのものをやめる意思決定も可能になる仕組みを構築した。
しかし、この取捨選択は容易ではない。特に顧客に大きな影響を及ぼす変更の場合はさらに難易度が高く、たとえば、1日2回実施していた独自出荷プロセスを業界で標準的な1回に統一する際には、顧客への説明と説得にかなりの時間をかけた。物流問題や事業の方向性といった背景に理解を得られた後も、この1つのプロセス変更だけで1年半を要したが、確実に実施していくことで、将来に向けたステップを描くことができている。
JTB:複雑なステークホルダー調整
JTBは現在、財務・会計システム、社内ワークフロー、クラウドセキュリティ、ネットワークインフラ、基幹系といった複数のトランスフォーメーションプロジェクトを並走させている。これらは相互に関連するため、個別のプロジェクトマネジメントだけでなく、全体を俯瞰したプログラムマネジメントが重要になる。これを怠ると、スケジュールの遅延や相互影響が連鎖的に発生するからだ。

特に事を難しくしているのが、ステークホルダーの多さだという。課題や仕様を詰めるほど要求事項が増え、限られたスケジュールとコストに影響を与える。そのため、変革の大きな方向性を常に示しながら、あるべきアーキテクチャを崩さないよう対話と交渉を継続する必要がある。
こうした課題に対応するため、JTBは「Architecture CoE(Center of Excellence)」を設立。新システム構築時は必ずArchitecture CoEに相談し、既存システムのアーキテクチャを維持・管理する体制を構築した。

また、チェンジ・マネジメントも重要な取り組みだ。プロジェクトの目標を常に明確にし、ステークホルダーとの継続的なコミュニケーションを実施している。
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酒井 真弓(サカイ マユミ)
ノンフィクションライター。アイティメディア(株)で情報システム部を経て、エンタープライズIT領域において年間60ほどのイベントを企画。2018年、フリーに転向。現在は記者、広報、イベント企画、マネージャーとして、行政から民間まで幅広く記事執筆、企画運営に奔走している。日本初となるGoogle C...
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