義務対応で終わらせない 「リース会計改革」が拓く経営の未来
財務指標の悪化、プロジェクト推進の多大な労力など、ネガティブな側面が注目されがちな新リース会計基準への対応。しかし、両氏はこの変革を前向きに捉え、経営を高度化させる機会にすべきだと口を揃える。
特に、これまで見えにくかった「コストの可視化」という観点では、企業において大きなメリットとなるだろう。すべてのリースがオンバランス化されることで、自社が利用している資産の全体像を正確に把握できるようになる。「これまでは『オンバランスにならなければ良い』という観点からリースを選択していたかもしれませんが、今後は“実態”をベースに資産計上されるため、リースと購入どちらが会社にとって有利なのかを判断することも重要です」と南氏。吉田氏も、「『短期でリースしているために、トータルコストが非常に高くなっていた』という場合、購入した場合と比べて投資回収にどれくらいのインパクトが出てくるのか、といった議論が交わせるようになるでしょう」と話す。
また、「ガバナンスの強化」につながる点も大きいだろう。これまで部門単位の判断で締結されることもあったリース契約が、今後は資産として計上されることで、設備投資と同様に上席者や管理部門による厳格な承認プロセスを経るようになる。
他にも、管理会計に与える影響は理解しておくべきだとして、吉田氏は、「最近、ROIC(投下資本利益率)を経営指標に用いている企業が増えてきていると思います。このROICの分母である投下資本に、今回計上されるリース資産を含めるのかどうか、という論点があります」と指摘し、業績評価への影響までを考慮する必要があることも示唆した。
「どうしてもネガティブになりがちな『新リース会計基準』への対応だからこそ、プラスに転じるということを意識することが大切だと思います」(吉田氏)
新リース会計基準への対応は、資産の実態を再度把握し、業務プロセスを見直し、データに基づいた経営判断(≒データドリブン経営)の精度を高める絶好の機会なのだ。
「大型の会計基準の導入という意味では、おそらく新リース会計基準が最後になるだろうと言われています」と吉田氏。すべての企業、そして企業内の多くの部門を巻き込むこの一大プロジェクトを成功に導けるかどうかは、財務や経理部門だけでなく、情報システム部門などの関係部署が両輪となり、プロジェクトをリードできるかにかかっている。目の前に課題は山積しているものの、乗り越えた先には、より強靭かつ透明性の高い経営基盤の構築という未来が拓けているはずだ。

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岡本 拓也(編集部)(オカモト タクヤ)
1993年福岡県生まれ。京都外国語大学イタリア語学科卒業。ニュースサイトの編集、システム開発、ライターなどを経験し、2020年株式会社翔泳社に入社。ITリーダー向け専門メディア『EnterpriseZine』の編集・企画・運営に携わる。2023年4月、EnterpriseZine編集長就任。
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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