ネクスウェイは10月2日、デジタル月間に合わせて同社が掲げる「変えないDX」構想発表会を開催した。
ネクスウェイは、1985年にリクルートの通信事業部として事業を開始し、現在はTISインテックグループの一員である。同社の事業は主に通信事業を基盤とし、「想いを情報でつなぎ、躍動する社会を作る。」という理念のもと、企業の業務支援と情報伝達を支援してきた。提供するサービスは、FAXやメールの一斉配信サービス、ショートメッセージサービス(SMS)など多岐にわたり、これらを統合したSaaSを提供している。顧客基盤は、大企業から個人事業主まで約16,000社にのぼり、様々な業界・業種のDXを「黒子」として支えているのが特徴だ。代表取締役社長の坂本倫史氏は、情報処理の多くがクラウド上で進む現代においても「現実世界での活動を支えるアナログとデジタルの連携が極めて重要である」と強調する。

発表会ではまず、日本におけるDX推進の現状が示された。情報処理推進機構(IPA)の調査によると、DXへの取り組みは全社戦略として進展している企業が多いものの、企業規模による「DX格差」が顕著であるという。従業員1,000人以上の大企業では約96.6%がDXに取り組んでいるのに対し、100人以下の中小企業ではその割合が44.7%に留まる。日本企業の多くを占める中小企業においてDXの遅れは深刻な課題となっており、その背景には「人手不足」「予算不足」といったリソース不足だけでなく、「相談先がない」といった事情もあるとした。
一方で、大企業においてもDXを阻害する「壁」が存在する。一つはレガシーシステム。そしてもう一つ、坂本社長が特に注目したのが「お客様や取引先との関係」という壁だ。大企業がDXを進めたい意向があっても、その取引先である中小企業がデジタル化できていない場合、企業間でのスムーズな連携が妨げられ、結果的に大企業のDX推進までもが停滞してしまうという構造的な課題があるという。
坂本社長は、この構造的な課題を乗り越えるための新たなアプローチとして「変えないDX」構想を提唱。これは、急激な変革を強制するのではなく、「大切にしたいものは変えないままに、実現可能な変革を見つけること」を目的とする。具体的には、企業が強みとしていることや、既存の取引関係を棄損せず、現場の混乱を最小限に抑え、ペーパーレス化や業務効率化という第一歩を踏み出すことを支援するという。

「変えないDX」の具体事例として、茨城県笠間市の給付金支給通知と、やおきんのFAX受注業務の効率化事例が紹介された。
事例1:茨城県笠間市の「定額減税補足給付金」支給通知
笠間市では、定額減税補足給付金の支給通知を住民一人あたり合計3回郵送で行っており、郵送コストと住民への迅速な給付が課題であったという。そこで、ネクスウェイのサービスを活用することで、住民に対して支給確認書の中で通知手段を郵送だけでなく、SMSによる通知も選択できるようにした。その結果、66.2%の住民がSMSでの通知を希望。これにより、職員の通知業務の約70%をデジタル化しつつ、紙での通知を希望する住民との関係も維持できたという。

山口伸樹市長は、導入結果について「思ったより住民の皆さんには抵抗がなかった」と述べ、職員の業務が効率化されたことで、「職員も『これならばもっと多岐にわたる住民サービスに活用できるんじゃないか』という意識がかなり高まった」と振り返る。SMS対応により、全国自治体の中でもトップクラスのスピードで給付を完了できた。

事例2:やおきんのFAX受注業務効率化
「うまい棒」などの駄菓子を販売するやおきんでは、問屋や卸業からの受注にFAXが使用されており、FAXの仕分け、基幹システムへの入力、返信、紙の管理が大きな課題だった。FAXは、繁忙期には1日2,000枚超で、年間十数万枚にも上っていたという。また、この業務を担当する従業員にとって、紙での処理が長年の慣習となっており、デジタルツールへの抵抗感もデジタル化の壁となっていた。
しかし、FAX送信待ちが発生するなど業務影響もあり、ネクスウェイのクラウドFAX受信サービス「FNX e-受信FAXサービス」を導入。これにより、FAXの仕分け作業が自動化され、複合機の順番待ちが解消、自席のPCからFAXを送信できるようになり、業務の効率化とレスポンスの向上を実現した。

やおきん 営業企画部 システム業務課 次長の栗林雅治氏は、導入時の懸念として社内抵抗を挙げたが、「入れてみたら(操作性が)想像より使いやすい」と評価。さらに、このサービスによって、自宅からリモートで受発注業務が可能となったことを強調した。

坂本社長は、「DX格差は構造的な課題であり、ネクスウェイがそのつなぎ目に入り込むことで解決に貢献できる」と語る。特にやおきんの事例を挙げ、「取引先との関係性は変わっていないけど、自分たちは大きくデジタルの恩恵を受けている状態が作れている」と、「変えないDX」の成功のポイントを説明した。また、笠間市の事例に見られるように、DX推進は、職員が煩雑な作業から解放され、より住民サービスの向上といった前向きなアクションに時間を割けるようになるための成功体験を生み出すことが重要だと述べた。
発表会には特別ゲストとして、お笑い芸人のキンタロー。さんが登場。アナログとデジタルの狭間で苦悩するアナログサラリーマン「酒田光男(さかたみつお)」という新キャラクターに扮し、固定電話を抱えながら、「FAXがたくさんきて忙しい~。猫の手も借りたい~」とぼやきながらネタを披露した。腕には手書きのQRコードも書かれており、会場を沸かせた。「変えないDX」が広がることのメリットを問われたキンタロー。さんは「アナログで慣れ親しんだものをいきなり変えるのは怖い。ちょっとずつ便利さを取り入れていくなら、敷居も低くなるし安心感がある」と期待を寄せる。

ネクスウェイは今後も「変えないDX」の考え方をベースに、使いやすさにこだわり、アナログとデジタルをつなぐサービスの提供や新規事業の開発、パートナーとの連携や協業を強化する方針だ。坂本社長は、「ゆっくり優しく変わっていけるというような世界観を様々なコンテンツを通じて世の中に啓蒙していきたい」と語り、DX推進を「止めるのではなく、より強力に進めていく」ための新たな価値観を広げていく展望を示した。
【関連記事】
・ネクスウェイとサイバートラスト、マイナンバーカードによる公的個人認証サービスを活用した本人確認サービスを提供
・TIS、システムの「運用高度化コンサルティングサービス」を開始 AIOpsなど活用し“価値を創出する”運用へ
・TIS、インテックの吸収合併を発表 2026年7月1日から「TISI株式会社」へ
この記事は参考になりましたか?
- この記事の著者
-
小山 奨太(編集部)(コヤマ ショウタ)
EnterpriseZine編集部所属。製造小売業の情報システム部門で運用保守、DX推進などを経験。
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
この記事は参考になりましたか?
この記事をシェア