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「ハイブリッド・バイ・デザイン」とは何か?──IBMが示すAI・マルチクラウド戦略

IBM ジェイソン・マギー氏/ロヒット・バドラニー氏 インタビュー

同じゴールでも3年後に明暗、成功企業が実践した標準化と自動化戦略

(左より)

ジェイソン・マギー(Jason McGee)氏:IBM Fellow, IBM Cloud CTO, Cloud Platform担当GM。IBMのクラウド技術戦略全体を指揮し、ハイブリッドクラウドアーキテクチャとAIプラットフォームの統合を推進。
ロヒット・バドラニー(Rohit Badlaney)氏:IBM Cloud Product, Design and Industry Platforms担当GM。エンタープライズクラウド戦略とインダストリー特化型ソリューションの開発を統括。

 講演終了後、両氏は独自のインタビューに応じてくれた。

──IBMが提唱する「ハイブリッド・バイ・デザイン」について、具体的な事例を交えて教えてください。

バドラニー氏:実際のクライアント事例を通じて説明しましょう。私たちは対照的な2つの企業の歩みを見てきました。興味深いことに、両社は同じゴールを目指していたにもかかわらず、アプローチの違いが大きく異なる結果をもたらしたのです。

 ある企業では、クラウドに全面的に移行し、さらに別のクラウドにも展開しました。ただ、ワークロードの配置やランディングゾーン、つまりクラウド環境の基盤設計を十分に検討しないまま進めてしまったのです。その結果、オンプレミス環境に加えて複数のクラウド環境が乱立してしまい、セキュリティ、コンプライアンス、規制の観点から統一的に管理されていない状態になってしまいました。

 対照的に、もう一方の企業はまったく違うアプローチをとりました。彼らはクラウドへの移行を急がないという決断をしたんです。その代わりに、まず標準化を徹底的に行い、すべてのアプリケーションを把握することから始めました。そして開発・セキュリティ・運用を統合したDevSecOpsフローをしっかり設計したうえで、Red Hatのようなハイブリッドクラウドプラットフォームを活用しながら、ワークロードの特性に応じて最適な配置先を決めるという方針を徹底したのです。

 具体的には、高スループットで可用性が求められる基幹系のトランザクション処理システムはメインフレームに維持し、開発者が新規に作成するアプリケーションはクラウド上で構築する、といった形です。

 そして3年後、両社を比較してみると驚くべき結果が出ました。同じ数のアプリケーションを移行していたにもかかわらず、後者の企業ははるかに速く移行を完了していたのです。綿密な自動化戦略、標準化、コンテナ化を採用し、ワークロードの特性をインフラとランディングゾーンに適切にマッピングしたことが功を奏しました。これこそが、私たちが「ハイブリッド・バイ・デザイン」と呼ぶレベルの成熟度なのです。

マギー氏:ハイブリッド・バイ・デザインは、ハイブリッドを単なる「現状の説明」ではなく、「戦略およびアーキテクチャ」として位置づける考え方です。この方針を採用したクライアントの多くは、複数の環境に一貫して適用できる「単一のテクノロジースタック」を選択する傾向があります。たとえば、OpenShiftのようなコンテナプラットフォームをデフォルトとし、全体の80%のアプリケーションを処理できる共通スタックを定義し、残りの20%については各クラウドの独自技術を選択的に活用するのです。

CIOだけでは不十分、データ責任者とAI責任者が台頭する組織変革

──ハイブリッド環境やAI活用が進む中で、企業の組織体制や役割はどう変わっていくべきでしょうか?

バドラニー氏:CIOの役割は依然として重要ですが、特にエンタープライズクライアントや規制業界では、CISOやリスク責任者の重要性が増しています。さらに、ハイブリッド環境の拡大に伴い、「データ責任者」と「AI責任者」という役割が新たに台頭しています。「AIは本質的にデータの問題」であり、質の高いデータに適用しなければ意味がありません。

マギー氏:クラウドにおける自動化、そしてAgentic AI(エージェント型AI)の登場により、これらの役割は「テクノロジー、ポリシー文書、自動化、標準カタログの中にコード化」される必要があります。プロセスベースでは技術の進化スピードに追いつかないのです。

バドラニー氏:具体例として、IBM Cloudのグローバル展開では、日本のISMAP(政府情報システムのためのセキュリティ評価制度)、カナダのPIPEDA(個人情報保護法)、ドイツのC5(クラウドセキュリティ基準)など、地域ごとの規制に対応してきました。

 従来、こうした規制対応のための証跡収集は人間が行っていましたが、効率化が進むにつれ、この証跡収集の多くはDevSecOpsプロセスに統合され、エージェントを使って自動化されるようになりました。この変化が今後1〜2年でクライアント企業にも広がると考えています。

次のページ
規制対応を競争力に変える、200社と共創した業界特化型クラウド基盤

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京部康男 (編集部)(キョウベヤスオ)

ライター兼エディター。翔泳社EnterpriseZineには業務委託として関わる。翔泳社在籍時には各種イベントの立ち上げやメディア、書籍、イベントに関わってきた。現在はフリーランスとして、エンタープライズIT、行政情報IT関連、企業のWeb記事作成、企業出版支援などを行う。Mail : k...

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