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福井県が実践する“内発的動機”を引き出す意識改革──職員が携帯する「5つのクレド」の体現で自分ごと化

#5:福井県 | 知事のリーダーシップと様々な施策で職員の内発的動機を引き出す

職員の“やる気を喚起する”多方面からのアプロ―チ

 組織変革を語るうえで、意識改革とともに重要なのは人材育成とそれを支える仕組み作りである。次に、その点についてお聞きした。福井県では、自律的なDX人材を育成することを目的にいくつもの施策を実施しているが、そのうち2つを紹介する。

 1つ目が「全庁ブートキャンプ」である。これは、実際の業務課題を持ち込んで、解決するツールが完成するまで帰れないという研修だ。最後まで完遂することで「自分もできるんだ」という成功体験を得てもらうことが目的。これにより既に100件を超える取り組みが実現しているという。

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資料提供:福井県

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 2つ目が「いいね!チャレンジ」である。これは、日々庁内で生まれている好事例を職員間や市町と共有する仕組みで、RPAなどを用いた事例が多い。これにより職員のモチベーションが増加したという。

 他にも、女性活躍を目的とした「県庁デジタル女子部ひよこ隊」、若手職員が知事に直接事業提案できる「チャレンジ政策提案」、勤務時間の一部(20%)を活用して新たな創造活動に従事できる「ふくい式20%ルール」、財政査定や知事承認が必要ない予算枠を設けた「政策トライアル枠予算」など、様々な施策を実施している。これだけ数多くの施策を実践しているとは、頭の下がる思いだ。

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資料提供:福井県

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 筆者は人事制度に関係する施策に関心があり、その点についてもお聞きした。

 「人事制度との関係で言えば、公務員の給与や報酬を大きく変更することは困難ですが、モチベーション向上のための施策は実施しています」と角副部長。その一つが「クレドアワード」という表彰制度だ。これは、優れた業務改革等を行った職員またはグループを職員投票などを経て表彰するという制度で、表彰対象者には表彰状のほか、勤勉手当が加算される仕組み。同アワードは5部門を設け、それぞれ知事賞や副知事賞など5つの表彰枠を用意し、大賞である知事賞には例年3~5組の職員が表彰されている。先般、DX推進課の若手職員がkintoneで作成したシステムが評価され、勤勉手当が加算されて喜んでいたと教えてくれた。

 以上のような仕組みを継続的に実践することにより、福井県ではデジタル化による業務改革を当たり前とする職場の雰囲気が醸成され、「自分ごと化」する職員が増えたという。

 その一例として、土木部の事例を教えてくれた。同部では、部内有志による「DX検討委員会」が立ち上げられ、上層部の支援のもと、部全体で改善活動を実施している。これはDX推進部門(未来創造部)がリードしたものではなく、土木部で自律的に改善の動きが生まれたものだという。こういった動きは自治体では非常に珍しく、素晴らしい組織文化だと筆者は感じた。

「県民のため」という内発的動機を起点に

 以上、福井県の組織変革・意識改革に向けた素晴らしい施策の数々を紹介してきたが、もちろん課題もある。インタビューの最後に、今後の課題についてお聞きした。予算確保といった一般的な課題に加え、次のような課題が挙げられた。

 1つ目が、DXの推進体制に関する課題である。福井県では、各部署にDXリーダー(キーパーソン)を配置してDXを推進する体制が取られている。DXリーダーは、部署内のDX推進に関する窓口役であり、それに任命された職員は非常にモチベーション高く取り組んでいるという。ただし、「今後AIをはじめデジタル技術の急激な進化が予想される環境下では、DXリーダーだけに頼る体制では厳しいと感じています」と前側氏は言う。特に、民間企業との連携やBPO(Business Process Outsourcing)と呼ばれるノンコア業務のアウトソース化の加速が予想されるため、そういった活動をリードできる人材の育成が必要だという。

 2つ目は、人事制度に関する課題だ。たとえば、外部からのデジタル人材・IT人材を確保しようとすると民間企業との競争になるが、給与の問題でどうしても厳しい状況になる。それに、人事異動を含むゼネラリスト志向の人事制度ではスペシャリストの育成が難しいという課題もある。それらの課題解決のためには人事制度を改定する必要があるが、まだそこには至っておらず、今後の課題とした。

 ただし、人事制度だけがすべてではないと前側氏は強調する。

 「公共セクターの職員は『県民のため』という意識が強いモチベーションの源泉となっています。これは利益追求が第一となる民間企業との根本的な違いです。この内発的動機に働きかけることが、DX推進において重要なポイントと考えています」(前側氏)

 なるほどと筆者は膝を打った。この「内発的動機」という言葉が、福井県のキーワードではないかと思った。これまで述べた様々な施策は、たしかに職員の自律的な行動を促すものであり、内発的動機に訴えかけるものが多い。筆者としては、最後に良い話を聞けたと思い、満足して帰路に着いたのであった。

 本稿では、福井県庁を訪問して、同県の組織変革・意識改革に向けた様々な施策やその意義・実効性などについてインタビューした。ポイントは知事のリーダーシップと様々な仕組み作りであり、それらが職員の内発的動機を引き出して組織変革・意識改革に奏功している点だ。今後も福井県の取り組みに注目するとともに、陰ながら応援していきたい。

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この記事の著者

角田 仁(ツノダ ヒトシ)

1989年に東京海上火災保険に入社。主にIT部門においてIT戦略の企画業務を担当する。2015年からは東京海上のIT企画部参与(部長)および東京海上日動システムズ執行役員。2019年、博士号取得を機に30年間務めた東京海上を退職して大学教員へ転じ、名古屋経済大学教授や千葉工業大学教授を歴任した。現在...

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