日本企業の「DX停滞」を突破する実践的処方箋
──日本の産業用ロボットは世界トップクラスですが、プラットフォームを築けなかったという指摘もあります。今後、日本の製造業は何をすべきでしょうか。
福本:日本の技術力は間違いなく高いと思います。去年のIIFESや国際ロボット展ではコンセプトレベルですが多くのデモが行われていました。印象深かったのは、AIエージェントが搭載された多関節ロボットが協調作業をしながら動くという展示です。また、日本の産業用ロボットは壊れにくく、アクチュエーターなどの精度も非常に高い。
しかし問題は、決まった動きを高速・高精度で行う産業ロボットにこだわりすぎたことです。汎用プラットフォームの開発、ソフトウェアによる上位からの抽象化・制御という面で、優位性を築けませんでした。これだけ産業ロボットで強いポジションにありながら、ロボットのOSやプラットフォームを築けなかった。たとえば、シュナイダーエレクトリックではソフトウェア・デファインド・オートメーションを活用し、ソフトウェアとハードウェアを分離・抽象化することで、バーチャルPLCを実現する取り組みを進めています。同社のEcoStruxure Automation Expertと呼ばれるソフトウェアでたとえばライン全体のプログラムを組んでその下でPLCをコントロールするような仕組みをハノーバーメッセ2025で展示していました。IECの規格に準拠したハードウェアであれば、装置メーカーを選ばない点も特長と言えます。
日本企業も、全部を自社でやろうとするのではなく、自社のコアコンピタンスがどこにあるのかを見つめなおす必要があると思います。制御システムを提供したり、高精度なコントロール機構を部品として供給する側に回るという選択肢もある。垂直統合で全部やる時代は終わりつつあります。
日本の製造業DXは、正直なところ5合目にも達していないでしょう。特に深刻なのは、中堅・中小企業に行くほどDXへの取り組み割合が下がることです。アメリカやドイツではそこまで下がりません。これは日本特有の問題です。
それぞれの立場への提言があります。経営者は、文化や風土を変えられる唯一の存在です。中堅層は、自分の見ている範囲の効率化だけでなく、視点を一段上げてほしい。「このテクノロジーを使ったら、もっと広い範囲でどうなるか」を考える。それだけで見える景色が変わります。現場は、同じ会社の他の工場を見学するところからはじめるのもよい気がします。実際に、別の工場を見学させたら「すごい発見があった」という声が出た事例があります。ずっと同じ現場にいると「自分の仕事はこれでいい」と思いがちですが、それが危険なのです。
最後に強調したいのは、テクノロジーを導入することはゴールではなく手段だということです。日本の製造業には「難しいことは避けて通る」という傾向があります。難しいから逃げる、面倒くさいから逃げたくなる──その気持ちはわかります。でも、そこから逃げると負けます。製造業のど真ん中、コアコンピタンスの部分に正面から取り組む。文化風土を変える。それが重要なのではないでしょうか。
福本勲(ふくもと・いさお):合同会社アルファコンパス代表CEO。製造業DX・インダストリアルIoTに精通したテクノロジーエバンジェリスト、中小企業診断士。早稲田大学大学院修了後、東芝でSCM・ERPなどの事業立ち上げや大型プロジェクトに携わり、独立後はDX戦略・現場変革、マーケティング、プロモーション支援、講演・執筆活動などを行っている。主な著書に『製造業DX: EU/ドイツに学ぶ最新デジタル戦略』(2023年)、『製造業DX Next Stage』(2025年)など。
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京部康男 (編集部)(キョウベヤスオ)
ライター兼エディター。翔泳社EnterpriseZineには業務委託として関わる。翔泳社在籍時には各種イベントの立ち上げやメディア、書籍、イベントに関わってきた。現在はフリーランスとして、エンタープライズIT、行政情報IT関連、企業のWeb記事作成、企業出版支援などを行う。Mail : k...
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