本連載では、ITプロジェクトにおける様々な勘所を、実際の判例を題材として解説しています。今回取り上げるのは、「プログラムの著作権」を巡って争われた裁判です。あるベンダーを退職した元社員が、自身が在職中に顧客向けに開発したシステムのプログラムについて、「自身が創作したプログラムを、退職後も会社が無断で使用している」との主張を展開しました。判決の材料として重視されたのは、そのプログラムの“独自性・新規性”です。自社のプロダクトやプログラムを確実に守るために、参考となる運用や契約、リスク管理の勘所を押さえておきましょう。
「自分が作ったプログラムの機能には新規性がある」と著作権を主張した裁判
「コンピュータ・プログラムには著作物性が認められる余地がある」ということは、著作権法の規定からも明らかです。しかし実務の感覚としては、そのハードルは決して低くありません。プログラムとは、使用言語の文法に従い、既存の定型的な構造を組み合わせて作られることが多く、開発者がどれほど工夫を凝らしても、外形的には一般的な記述に見えてしまうことが少なくないからです。
ファイル操作の命令、データベースの定義、通信規格に沿ったWeb表現などは、誰が書いても似たようなコードになります。全体のロジックやUIに独自の工夫があって初めて創作性が認められる余地が生まれますが、多くの業務用プログラムは似た目的を達成するために作られており、独自性を主張するのは容易ではありません。
では、コード自体は平凡であっても、そこで実現される「機能」が独特である場合はどうでしょうか。表面的には定型的な命令が並んでいても、その組み合わせによって新しい機能が生まれているとき、果たして著作物性は認められるのか。今回は、まさにその点が争われた裁判例を取り上げます。
東京地方裁判所 令和元年5月21日判決
ある開発ベンダー(被告企業)が飲食店向けの注文管理システムを開発し、ユーザーである飲食店に頒布した。ところが、このプログラムを開発したメンバーである元従業員(原告)が、自身の担当したプログラム(スタッフ端末からの注文情報をサーバーで一括管理しレジやキッチン端末へ自動的に連携する一連の処理等)を被告会社が自身の退職後も引き続き利用していることを知り、これはプログラムの無断使用であるとして著作権侵害を訴えた。
これに対して被告会社は、プログラムのコード自体は一般的な技術の組合せにすぎず、著作物として保護されるような独自性はないと反論した。これに対し原告は、コードの細部ではなく、注文入力からデータベース管理、端末出力までを一体として実現する機能構成こそが独自であり、そこに創作性が認められるべきだと主張した。こうして、機能の独自性を根拠としてプログラムに著作物性が認められるかが、本件の中心的な争点となった。
出典:裁判所WEB 事件番号 平成28年(ワ)第11067号
原告は、在職中に開発へ関与した注文管理システムの中核部分について、「自らが創作したプログラムを被告会社が退職後も無断で利用している」と主張しています。原告によればこのプログラムは、スタッフ端末で入力された注文情報を、サーバー側の処理を経由して飲食店向けに最適化されたデータベースで一括管理し、その情報をレジやキッチンモニターへ自動的に出力するという、一連の機能が一体となって動作する点に独自性があるとされています。コードの細部は一般的であっても、こうした機能構成全体が新しい仕組みであり、そこに創作性が認められるべきだという立場です。
これに対して被告会社は、原告が作成したとする部分の多くは、レジ画面、キッチンモニター、マスタメンテナンスといった業務システムで広く見られる機能であり、書籍やインターネット上に公開されているPOS端末の画面例や汎用的なソースコードを参考にすれば、容易に作成できるものだと反論しています。「変数の付け方や条件分岐の配置なども定型的で、創作性が発揮される余地はほとんどない」というのが被告側の見解です。
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細川義洋(ホソカワヨシヒロ)
ITプロセスコンサルタント
経済産業省デジタル統括アドバイザー兼最高情報セキュリティアドバイザ
元東京地方裁判所 民事調停委員 IT専門委員
筑波大学大学院修了(法学修士)日本電気ソフトウェア㈱ (現 NECソリューションイノベータ㈱)にて金融業向け情報システム及びネットワークシステム...※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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