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2026年冬号(EnterpriseZine Press 2026 Winter)特集「AI時代こそ『攻めの経理・攻めのCFO』に転じる」

EnterpriseZine Press

SAPが描くAI時代の「クリーンコア」戦略──統合ツールチェーンで“攻めのIT”に機動性を加える

PoC止まりにさせない、AI実装の壁をFDEで支援

 企業のAI導入への意欲は衰える兆しが見えないが、PoC後に本番環境への移行に悩む企業の話を聞く機会が増えてきた。この悩みは日本企業に限った話ではない。世界のCIOたちは今、投資に対する成果と変革スピードアップという共通の課題に直面しているという。なぜ、期待通りの価値を創出できないのか。その鍵を握るのは、データの品質と「クリーンコア」による運用の柔軟性だ。SAP SE Extended Boardメンバーで、2万人以上のグローバルチームを率いるThomas Pfiester氏に、AI実装のボトルネックとその打開策を聞いた。

CIOに求められる、コストとスピードのプレッシャー

──まず、責任者を務めるCustomer Engagement & Adoption組織の役割とミッションから教えてください。

 Customer Engagement & Adoptionは、主にSAPを導入した導入後のお客さまとの取り組みに注力する組織です。この組織のミッションは、クラウド変革を推進し、お客さまが投資から最大限の価値を引き出せるサポートを提供することです。その実現では、「イノベーション」「クリーンコア」「変革ロードマップ」の3つを重視しています。これらすべてが価値実現までの時間を短縮し、変革の時間と価値獲得の時間を短縮する。私のチームには多くの専門家がいて、ツールや方法論を駆使し、お客さまがクラウドソリューションを初めて利用する段階から、完全な利用段階までその過程をサポートしています。

──世界中の経営幹部との対話機会が多いと思います。よく聞く課題には、どんなものがありますか。

 世界中のCIOたちが抱えている主要課題の1つは、コストプレッシャーです。投資から成果を生み出さなくてはならないプレッシャーを抱えています。また、変革のスピードの課題もあります。CIOには変革の加速を期待されています。SAPが提供するソリューションポートフォリオはAI活用に最適化されており、世界のCxOたちのニーズに対応し、企業がより迅速に価値を得て、直接的なプロセス実行を可能にし、成果を効果的かつ効率的に測定することに役立ちます。

──従来からコストとスピードは求められていたと思いますが、AI導入でより期待が高くなっているということでしょうか。

 その通りです。私たちはAIを3つの側面から見ています。まず、UIとしてのAIです。SAP Jouleのように、ユーザーとシステムとのインタラクションにAIを使う。自然言語でコミュニケーションできるため、インタラクションがより容易になります。処理の実行時間が短くなり、ユーザーへの浸透度が向上します。次に、アプリケーションに組み込まれたAIです。財務アプリケーションにAIを組み込む例で言えば、売掛金の回収期間が短くなります。この短縮は、キャッシュフローにプラスの影響を与え、継続的な改善につながります。最後に、インダストリーAIです。これは、AIでコアとなる業界プロセスを差別化できる領域になります。

 SAPでは、Forward Deployed Engineering(FDE:顧客のテクノロジー導入最前線にエンジニアを直接配置するエンジニアリング手法)を採用しています。こうすることで、お客さまのビジネスにインパクトのあるユースケースを特定し、PoCの実施、本番環境へとスムースに移行できます。その際に重視しているのは、取り組みを測定可能なビジネス成果につなげることです。

画像を説明するテキストなくても可
SAP SE Extended Boardメンバー Thomas Pfiester氏

PoC止まりのAIプロジェクト、根源的な原因とは?

──日本企業では、PoCまでは順調でも、本番環境への移行に高い壁があるようです。最大のボトルネックは何だと思いますか。

 大きな壁の1つが、データの分散によるデータ品質の低さだと思います。小さくPoCを実施してから展開しようとしても、この問題でAI(特にLLM)が十分な性能を発揮できないことがよくあります。この課題を克服するためにSAPが構築したのが「Business Data Cloud」です。これは、SAPデータと非SAPデータを統合し、AIが適切に利用できるようにする基盤を提供するものです。

 もう1つ、AIユースケースの価値評価も壁です。ビジネスの文脈に沿ってAIの価値を評価する方法が明確になっていない場合が非常に多い。主な理由は、ビジネス部門と共同でユースケースを定義していないことにあるようです。この課題解決のため、SAPはFDEを採用したのです。インダストリー、ビジネスプロセス、データサイエンスの各専門家を集め、IT部門やビジネス部門と協働し、お客さまのビジネス成果に貢献するユースケースの特定、PoC、本番環境への移行をサポートします。

──FDEの方法論は、価値のあるユースケースを特定した後、散在しているデータをデータ基盤に統合し、AIが利用できるようにするものという理解でいいでしょうか。

 その通りです。FDEの最終的な成果の一つに、SAPの統合ツールチェーンとエージェントビルダーを利用して構築するAIエージェントがあります。つまり、SAPテクノロジーを用いたエージェントの構築・設計・開発は、FDEの中核をなす要素の一つなのです。

──お客さまの現場に入り込むのであれば、チームメンバーのスキルが重要です。育成では何を重視していますか。

 SAPの中核的な強みは、インダストリーに関する深い専門知識にあります。25のインダストリーそれぞれのビジネストレンドと標準プロセスに関する専門知識を持った担当者が、お客さまをサポートします。また、最新のテクノロジートレンドとテクノロジー標準に則したソリューションを提供できるよう、社員のトレーニングとソリューション開発に継続的に投資しています。つまり、インダストリーに関する専門知識とテクノロジーに関する専門知識の両方を組み合わせて提供できることが、SAPの強みです。

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攻めのITには「クリーンコア」が必須に

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この記事の著者

冨永 裕子(トミナガ ユウコ)

 IT調査会社(ITR、IDC Japan)で、エンタープライズIT分野におけるソフトウエアの調査プロジェクトを担当する。その傍らITコンサルタントとして、ユーザー企業を対象としたITマネジメント領域を中心としたコンサルティングプロジェクトを経験。現在はフリーランスのITアナリスト兼ITコンサルタン...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

小山 奨太(編集部)(コヤマ ショウタ)

EnterpriseZine編集部所属。製造小売業の情報システム部門で運用保守、DX推進などを経験。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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