数字だけで人は動かない、その原因は「認知上の問題」にある
なぜ数字だけで人は動かないのか……。熊坂氏は、自社の状況に深く関係していると感じた3つの「認知上の問題」を説明した。いずれも、データの品質やツールの機能に問題があるのではなく、受け手側の認知に起因するものだ。
1つ目は“情報の希少性”の欠如だ。「見ろ」と強制されたり、あまりに頻繁に通知が来たりすると、かえって見なくなってしまうという問題である。日々行き交う社内メールを想像してみてほしい。大量の業務メールが受信フォルダには届いていても、ほとんどスパムメールのように扱って見なくなってしまう。そんな方も多いのではないだろうか。人が注意を払う範囲には限界があるのだ。
2つ目は、数字の先にある“目的”の欠如だ。「自分が何をしなければいけないのか」という想いがなければ、数字だけあったところで、何も筋道は立たない。
そして3つ目は、数字の背景にある“ストーリー”の欠如である。ただ数字の実態を説明されても、聞き手・受け手側としては「だから何なの」という感想しか出てこない。熊坂氏自身も、「今週のシステム稼働率はこれくらいで、ランニングコストはこれくらいで、と急に言われても、困惑する方がほとんどだろう。私だってそうなる」と当時の反省を振り返った。これは、IT部門の中にいると意外と気付きにくい感覚かもしれない。大切なのは、その数字が意味することは何なのかをセットで説明することだ。数字だけで人は動かないと熊坂氏は改めて指摘した。
痛感した学びを「TBM定着の3層モデル」へと昇華
熊坂氏はこの学びを、①データ、②認知、③文化から成る「TBM定着の3層モデル」という枠組みに落とし込んだ。それまではデータの層だけを作ってきた同氏だが、本来必要だったのは1階建てではなく、3階建てだったと述べる。

データの層は、土台となる1階に位置する。ITコストを分類する標準タクソノミーであるATUM(Apptio TBM Unified Model)、TCO、ベンチマークといったTBMが担う領域はここに収まる。2階には認知の層があり、1階で出た数字を現場や経営陣が理解しやすい「言葉」に変換して届ける。そして3階には文化の層が入り、経営陣や組織全体の様式を変えるための儀式、物語(ストーリー)などといった概念がここに位置づけられる。
これまでのH2OリテイリングにおけるTBM運用は、1階を高い完成度で整備することに集中してきた。しかし熊坂氏は、「これからの主戦場は2階と3階になる」との見立てを示す。
「言うなれば、豪華な平屋の玄関だけをずっと作っていたようなイメージです。ただし、組織の行動変容を起こすためには、2階、3階へ上がっていく階段が必要でしょう。にもかかわらず、我々はそのための階段を用意していなかったのです」(熊坂氏)
この記事は参考になりましたか?
- EnterpriseZine Press連載記事一覧
-
- SCS評価制度は何から始めるべきか? まずは公開済みの★3・26項目を自社に当ててみよう
- 阪急阪神百貨店のH2Oリテイリング、「259億円分のITコスト可視化」から始まった全社変革...
- IIBA・Social Value Lab・PMIが語るAI時代の「変革人材」の再定義
- この記事の著者
-
森 英信(モリ ヒデノブ)
就職情報誌やMac雑誌の編集業務、モバイルコンテンツ制作会社勤務を経て、2005年に編集プロダクション業務とWebシステム開発事業を展開する会社・アンジーを創業した。編集プロダクション業務では、日本語と英語でのテック関連事例や海外スタートアップのインタビュー、イベントレポートなどの企画・取材・執筆・...
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
この記事は参考になりましたか?
この記事をシェア
