“競わせない成熟度モデル”で組織リテラシーを向上
4つ目の施策は、部門ごとの「段階的な成熟度モデル」を適用する試みだ。当然だが、ITコスト管理のリテラシーは部門ごとに差がある。会計系のシステムを扱っている部門はきっちり予算管理ができる一方で、インフラ運用部門からは、精査されないまま前年と同額の予算見積もりが上がってくることもあるだろう。そこで熊坂氏は、以下4つの段階を設定した成熟度モデルを策定し、部門ごとに成熟度の引き上げを目指すことにした。
- レベル1:見える、気付ける
- レベル2:比較できる
- レベル3:判断の根拠として使えるようになる
- レベル4:他部門と一緒に手法を考え、協働できる
ここで重要な点として、同氏は「絶対に部門間で競わせてはいけない」と強調した。これは営業成績を競うマラソンのような世界ではない。ビギナーがトップアスリートと同じ土俵で順位付けされても、途端にやる気を失ってしまうだろう。比較すべきは、過去の自分たちと現在の自分たちである。
経営層への浸透も図る、TBMは「人を変える」対話のツール
最後に、5つ目の施策として紹介されたのは、経営会議にTBMを「儀式」として組み込む試みである。同社では、IT投資を専門に扱う「デジタル経営会議」なる定例の場がある。この中に、TBMを共通言語とした対話やレビューのプロセスを組み込んだとのことだ。
加えて、月次の経営会議の冒頭5分は「今月のTBMハイライト」という枠を設けたほか、四半期の会議では数字だけでなく“判断の物語”を共有する。そして半期に1回、TBMと投資戦略のレビューとしてRTB・GTB・TTBの配分を経営アジェンダに載せ、年次ではTBM文化醸成の振り返りとして、成熟度を組織横断で確認する。トップに意識を浸透させていく狙いだ。
先述のとおり、5つの施策のうち、ほとんどはようやく部分的な実践段階か、あるいは構想段階にある。しかし、それでも既に変化が表れていると熊坂氏。月の閲覧数4~5回、利用者数6名まで落ち込んでいた水準から、現在では閲覧数250回以上にまで回復した。
ここまでを踏まえ、同氏は「TBMとは対話のための共通言語・手段であり、最終的には人に変化を起こすためのものだ」と結論づける。
「TBMをただ導入しても変わりません。人間の認知には限界があるからです。これは変えようのない、仕方ないことです。ですから、『各部門にITコストの意識や能力がない』という捉え方をするのはやめましょう。私としても、背中を押してあげるような工夫を凝らすことで、全員がより高いところに登っていけるお膳立てができればと考えています」(熊坂氏)
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森 英信(モリ ヒデノブ)
就職情報誌やMac雑誌の編集業務、モバイルコンテンツ制作会社勤務を経て、2005年に編集プロダクション業務とWebシステム開発事業を展開する会社・アンジーを創業した。編集プロダクション業務では、日本語と英語でのテック関連事例や海外スタートアップのインタビュー、イベントレポートなどの企画・取材・執筆・...
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