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2026年冬号(EnterpriseZine Press 2026 Winter)特集「AI時代こそ『攻めの経理・攻めのCFO』に転じる」

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DXで組織を変えた私が、生成AI時代に見ている景色

地域中小企業でこそ、この考え方が効く

 この考え方を実践に落とす中で、意識しているのは地域の中小企業だ。

 大企業には専門のAI推進部門がある。外部コンサルを雇う予算もある。しかし地域の中小企業には、どちらもない。DX推進者が一人で何役もこなし、孤立している。かつての私と同じだ。

 だからこそ、支援の設計は「大企業の理論を小さくしたもの」ではなく、中小企業の現実から出発する必要がある。限られた予算、限られた人員、限られた時間。その中で何ができるか。

 今年、私が運営に関わっている経済産業省のマナビDXクエスト第3層、地域企業協働プログラムで、それを目の当たりにした。9社が参加するこのプログラムには、元エンジニア、DXをこれから始めたいマネージャー、普段はデータ分析をしているアナリスト、ISITのDX講座で学んだ受講生と、出自がまったく異なる人たちが集まっている。

 印象的だったのは、AIがすでに「前提」になっていたことだ。

 あるチームは、Googleマップのスクリーンショットを撮り、ブラウザの拡張機能に組み込んだAIツールで駐車場の配置図を作図していた。別のチームは、AIを使ってプロトタイプのアプリを自作し、何度も企業との壁打ちに臨んでいた。完成度を上げてから見せるのではなく、粗くてもまず形にして、フィードバックをもらって修正する。

 数年前の社内DX大学で、ノーコードツールを使って「現場が自分で作る」ことを目指した。あの思想が、AIによって一段階先に進んでいる。作るハードルがさらに下がり、試すスピードが上がり、壁打ちの回数が増えた。

 そしてこのプログラム自体が、異なる文脈が交わる学びの場でもある。異なる企業、異なる職種の人間が同じテーマに取り組み、互いの試行錯誤を共有する。あの夜、講座の後に残った者たちの対話と、構造はまったく同じだ。

 答えの一つは、外に出ることだ。自社にAIの専門家がいなくても、社外のプログラムやコミュニティに行けば実践例に触れられる。他社の成功と失敗から学べる。

 もう一つが、好奇心の育成だ。高度なAI技術を学ぶ前に、「自分たちの業務の何がおかしいか」に気づけること。その違和感を言語化できること。これがすべての出発点になる。第3回で書いた社内DX大学のマインドセット教育は、振り返ってみれば、この好奇心を引き出す場にほかならなかった。

それでも、変わる瞬間がある

 課題も壁も構造も、書いてきた。では、報われることはあるのか。

 ある。

 第3回で書いた社内DX大学。立ち上げ直前、全社Slackの告知投稿へのリアクションはたった2個だった。誰も反応しない。何を投稿しても沈黙が返ってくる。それが日常だった。

 しかし1年後、一つの投稿に100件近いリアクションが付く日が来た。新しいアイデアへの共感。失敗の共有への励まし。成功への祝福。沈黙していた組織が、対話する組織に変わり始めていた。

 若手から月15件の改善提案が出るようになった。「失敗から学ぶ」ことが称賛される空気が生まれた。会議室に、以前はなかった活気があった。

 ISITで地域企業を支援する中でも、兆しを見る。最初は「AIなんて自分には関係ない」と言っていた人が、隣の席の人の使い方を見て「それ、自分の業務でもできるかも」と動き始める。ファーストペンギンが飛び込み、セカンドペンギンが続く。第2回で書いたあの連鎖が、今も各地で起きている。

 そして私自身。あの頃、一人で資料を作って各部署を回り、白い目を向けられていた人間が、今は同じ苦しみを抱えるDX推進者を支援する側にいる。あの孤立と葛藤は無駄ではなかった。

 変化は劇的には来ない。しかし、小さな兆しは必ずある。リアクションが2個から3個になる。一人だった挑戦者が二人になる。その積み重ねが、気づけば組織を変えている。

連載を終えるにあたって

 越境学習とは、外に出ることで自分を変え、変わった自分で組織を変え、その経験をまた外に持ち出して誰かの力にする——その循環だ。この連載も、ひとつの越境かもしれない。

 振り返れば、すべての始まりは私自身の「なんか変だな」だった。ツールを入れても誰も使わない。おかしい。あの小さな違和感を放置していたら、社内DX大学も、この連載も、存在しなかった。

 第1回で「定義論争が奪った5年を取り戻すのは現場の実行だ」と書いた。5回書き終えた今、一つだけ書き加えたい。現場の実行を生むのは、好奇心だ。

 好奇心があれば、人は外に出る。外に出れば、新しい景色に出会う。景色が変われば、問いが生まれる。問いがあれば、AIは最強の相棒になる。そしてその先に、一人の「なんか変だな」から始まるイノベーションがある。DXもAIも、出発点は同じだ。

 好奇心は、誰の中にもある。AIの時代、それは最大の武器になる。

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この記事の著者

熊本 耕作(クマモトコウサク)

 公益財団法人九州先端科学技術研究所(ISIT)特別研究員。現場から経営戦略、組織開発、AI活用まで——部門と領域を越えて全体をデザインする"越境型DXアーキテクト"。
 20年にわたり、現場に深く入り込みつつ全社を俯瞰して構造を再設計。製造・調達・物流のDXからAIによる人員配置最適化、生成AIの全社展...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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