越境学習が、AI活用を加速させる

「何に使えばいいか分からない」という壁を越える最短経路は、他の現場の使い方を知ることだ。
社外コミュニティで「うちではAIをこう業務に組み込んでいる」「この使い方は試したが失敗だった」という対話が交わされると、個人のAI活用が一気に加速する。これは私自身が社外の対話で経験したことと、まったく同じ構造だ。
あの夜、講座の後に残った者たちの雑談で「ノーコードツール、情シスしか使ってないんですよね」という言葉を聞いた。それが私の中の点と点をつなげた。同じことが、今AIの文脈で起きている。
「うちの工場、AIに設備の稼働データを読ませたら、故障の兆候を事前に拾えるようになったんですよ。最初は精度が低かったけど、現場の人が『この数値のときは怪しい』って条件を足したら使えるようになった」
「営業の報告書、AIに下書きさせたら作成時間が半分になりました。ただ、数字の根拠は人間が確認しないと危ない。そこは割り切ってます」
こうした生の声が、自分の業務への応用のヒントになる。マニュアルを読むだけでは見えなかった「使いどころ」が、他者の実践を通じて見えてくる。
外に出て学ぶことは、ノーコードの時代も、生成AIの時代も、変わらず有効だ。むしろ技術の進化が速い今こそ、「外の現場で何が起きているか」を知ることの価値が増している。
出発点は、好奇心だ
DXの時代、最大の課題は「ツールを使わせること」だと思われていた。しかし連載を通じて書いてきたように、本当の壁はその奥にあった。サイロ化した組織構造、失敗を許さない風土、内発的動機のない全社展開。ツールが根づかない原因は、技術ではなく組織と文化にあった。
AIの時代、この課題は消えたわけではない。組織と文化の壁は依然として存在する。しかし、その上にもう一つ、新しい問いが加わった。
AIの活用で本当に重要なのは、プロンプトの書き方でも、ツールの選定でもない。本人が日々の業務の中で「なんか変だな」「本当にこのやり方でいいのか」という違和感を持てるかどうかだ。その違和感をAIに投げかけられるかどうか。
つまり、出発点は好奇心だ。
「この作業、毎回同じことを手で打ち込んでいるけど、もっと楽にならないか」「この数字の動き、何かおかしくないか」。こうした小さな違和感を放置せずに「なぜだろう」と立ち止まれること。そこから問いが生まれ、問いをAIに投げれば、答えはすぐに返ってくる。AIスキルやプロンプトの書き方は、その後の話にすぎない。好奇心がなければ、どれだけAIの使い方を研修しても「何を聞けばいいか分からない」で終わる。
ISITでは今、この考え方を土台にしたフレームワークの開発に取り組んでいる。すべての変革は問いから始まる。そして問いの源泉は、好奇心だ。違和感を持てる個人と、違和感を口に出せる組織を育てることが、AI時代の変革の土台になる。DX時代に学んだ組織文化の変革は、そのままこの土台の一部だ。
第1回で書いた「1→1.2の反復」の考え方はここでも変わらない。大きなフレームワークを一気に導入するのではなく、今の自分たちに何が足りないかに気づき、小さく試し、学ぶ。その繰り返しだ。
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熊本 耕作(クマモトコウサク)
公益財団法人九州先端科学技術研究所(ISIT)特別研究員。現場から経営戦略、組織開発、AI活用まで——部門と領域を越えて全体をデザインする"越境型DXアーキテクト"。
20年にわたり、現場に深く入り込みつつ全社を俯瞰して構造を再設計。製造・調達・物流のDXからAIによる人員配置最適化、生成AIの全社展...※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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