被告の主張:「一般公開かつ有用でない情報」だから秘密情報ではない
争点は、システムに保存されていた各情報が「営業秘密」にあたるかどうかです。これまでの連載でも、情報が営業秘密として認められるためには「情報を『秘密』として管理している」ことが必要という主旨の記事を書いてきました。
この観点について、原告企業の主張は以下のようなものでした。
いずれの情報もシステムで一元管理され、アクセスには指紋認証やパスワードが必要だった。また、就業規則でも守秘義務を定め、退職者には「秘密保持等に関する誓約書」への署名を求めていたのだから、すべての情報に秘密管理性があり、営業秘密に該当する。
これに対して、被告側は別の観点で以下のように反論しています。
マスタメンテ情報のうち、医療機関名・担当者名・医師名は一般に公開されており「非公知性」がない。業務用の同意書も、利用者にも渡す書類であるため「非公知性」を欠く。また、スケジュール表は一般的な内容を超えるものではないから「有用性」がない。
秘密として管理しているだけでなく、情報そのものが「公開されていない、かつ有用なもの」でなければならないという主張です。
この非公知性・有用性というのは、たしかに営業秘密として認められるためには必要です。では今回の事件では、どのような情報が「非公知であり、有用である」と判断されたのでしょうか。営業秘密とそうでない情報の境目を、裁判所はどう判断したのでしょうか。
大阪地方裁判所 令和8年1月22日判決
(マスタメンテ情報の一部情報は)当該機関名や担当者、医師名自体は秘密に属する情報ではない上、原告と当該機関等が関係していることについても、一般的に公となるか、少なくとも原告において秘密として維持することが性質上できない情報あるいは利用者には明らかとなっている情報である。そうすると、これらの情報は、少なくとも非公知性を欠くというべきである。
他方、(その他のマスタメンテ情報は)いずれも原告の利用者個人の情報であり、具体的には、医療保険や高齢者受給者証、高額療養費、介護保険、負担割合証及び公費に関する情報のほか、医療機関からの指示書や訪問看護における計画書等に関する情報である。これらの情報は、いずれも個人情報保護の観点からも保護の必要性の高い情報であり、その性質上、公知の情報とはいえず、契約継続中の利用者に関する情報である限り、原告の事業上有用な情報であるといえる。したがって、(中略)非公知性及び有用性がある。
出典:裁判所ウェブ 事件番号 令和6年(ワ)第5424号・令和6年(ワ)第8059号
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細川義洋(ホソカワヨシヒロ)
ITプロセスコンサルタント
経済産業省デジタル統括アドバイザー兼最高情報セキュリティアドバイザ
元東京地方裁判所 民事調停委員 IT専門委員
筑波大学大学院修了(法学修士)日本電気ソフトウェア㈱ (現 NECソリューションイノベータ㈱)にて金融業向け情報システム及びネットワークシステム...※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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