オートデスクは2026年7月22日、年次イベント「Design & Make Summit Japan」を東京で開催した。設計(デザイン)とものづくり(メイク)に関わる実務者と経営層が集まり、建設と製造それぞれの現場でのAI活用が語られた。
基調講演に立った同社 インダストリー&ポートフォリオ マーケティング担当バイスプレジデントのビクラム・ダット氏は、分断されたデータと人手の調整を前提としてきた業務を3点で組み替える「新しい設計図(ブループリント)」を示した。
この10年、業界は複雑化するプロジェクトと圧迫される利益率に、ツールとプロセスとレイヤーを足して応えてきたと同氏は説明する。「だが私たちは、率直に言って限界を迎えつつあるモデルに最適化してしまっている」(ダット氏)
データの分断と手作業の調整は表層ではなく構造に根ざした問題だと同氏は述べ、問いの立て方も変わるとした。「問いはもはや『AIは本物か』ではない。『AIは実際に、どこで仕事のやり方を変えるのか』だ」と語る。
同社が挙げるのが、建設向けの「Forma」、製造向けの「Fusion」、メディア向けの「Flow」という3つのインダストリークラウドを載せたAutodeskプラットフォームだ。加えて挙げたのがエージェント型AI(Agentic AI)である。出発点はツールではなく成果になり、エージェント自身が必要なツールを選んでワークフローに情報を流すという。
清水建設が語る2030年の建設DX、施工能力25%不足を見据えたエージェントAI活用
続く建設業界の顧客基調講演に登壇したのは、清水建設の原田知明氏(専務執行役員 建築総本部 生産技術本部長)と三戸景資氏(建築総本部 生産技術本部 建設DX基盤部長)。
同社は2020年の中期デジタル戦略を2024年に「デジタルゼネコン2.0」へ引き継ぎ、「2030年度までに、建築現場の生産性を向上させ、20億円規模のプロジェクトをターゲットに、現場の常駐2名で運営できるようにする」という目標を掲げた。「この到達点から逆算して取り組みを進めている」と原田氏は述べた。
同社が背景に挙げるのは施工能力の逼迫である。受注が予定通り進めば2029年度には能力が足りなくなり、2030年度には施工能力を現状より約25%以上引き上げる必要があるという。「従来の延長線上にある地道な改善では到達できない高いハードルだ」(原田氏)
このギャップを埋める取り組みの対象としたのが、1プロジェクト10億〜50億円の案件だ。過去5年の分析では金額の20%、件数では最多を占めた。業務時間の半分以上は支店などでも遂行できるとわかり、施工管理ツールや原価管理システムを1つのプラットフォームに接続した。
このプラットフォームがAI活用の前提条件になると三戸氏は説明する。データで仕事をする環境を整え、やり方が共通化されたところでコンピューターに任せ、蓄積した情報を学習させてエージェントに担わせる順序だ。「アナログからいきなり飛ぶことはできない。データベースで仕事をする環境がない限り、この先には進めない」と三戸氏は言う。
エージェント化の材料として重視するのが、構造モデルから自動生成した配筋モデルへの指摘事項データである。修正前後のモデルという構造化データと、指摘の文言という非構造化データが同じフォーマットでそろう。
さらに、AIと外部データ・ツールを接続するMCP(Model Context Protocol)経由でChatGPTやCopilotにつなぎ、鉄筋歴50年のベテランの経験を蓄積したエージェントを構成したという。
検査、原価管理、施工のやり直しによる損失を指す「仕損(しそん)」など業務単位のエージェントを統合し、現場監督の補助業務を担わせる構想だ。
一方で懸念を示したのが、特定の課題だけを解く「ポイントソリューション」の普及である。「ポイントソリューションはDXを破壊する。過激な言い方かもしれないが、おそらく的確だ」(三戸氏)
使いやすいUIを評価軸に選べば、人が働くことを前提とした業務がそのまま残ると指摘した。それを踏まえた上で「DXの本質は仕事を人間から奪うことだ」と言い切った。
オートデスク幹部が語るFusionとClaude連携、製造業のAI活用最前線
基調講演の後、会期に合わせて来日したオートデスクのビック・ベダンサム氏(設計・製造インダストリー戦略担当シニアディレクター)に、製造業でのAI活用を聞いた。同氏は業界に24年、うち14年をオートデスクの戦略部門で過ごす。
ベダンサム氏によると、データの分断は、製造業の現場でも起きているという。典型的な製品開発はコンセプト設計、エンジニアリング、シミュレーション、製造の4段階を経るが、各段階で膨らむデータが部門をまたいで流れることはほとんどない。「データは複雑で、分断されていて、部門間をスムーズに移動しない」。デジタル変革は技術の置き換えではなく、業務プロセス全体の見直しになるという。
この課題に対して同社が挙げるのがFusionである。3D CAD(コンピュータ支援設計)やCAM(同製造)、CAE(同エンジニアリング)、PLM(製品ライフサイクル管理)が30年かけて別々に根を張った製造業で、それらを1つの操作体験に束ね、共通の「Autodesk Data Model」とクラウド基盤「Autodesk Platform Services」の上でつなぐ。ベダンサム氏はこれを、設計から製造までデータが行き来する「完全なクローズドループのデジタルツイン」と呼ぶ。
対話型AIアシスタントによる自動化も進む。Fusion内蔵の「Autodesk Assistant」に「エアフライヤーを作りたい」と伝えると、対話を重ねながら形状が生成され、ネイティブのCADデータに変換されて下流の編集へ引き継がれる。図面化では寸法の記入まで自動処理される。
このAssistantはAnthropicの「Claude」によって構成される。内蔵Assistantとは別に、ユーザーが契約するClaudeのサブスクリプションから直接Fusionを操作する経路も用意されている。両者をつなぐのがMCPだ。
ポイントは、Claude側に設計データは送信されないことだ。「データはFusion側に残る。Claudeは会話のインターフェースにすぎず、Fusion内部のツールを呼び出して、必要なジオメトリを組み立てるよう指示を出しているだけだ」。FusionがMCPサーバーを立て、Claude側がクライアントとして接続する構成だという。「オープンなエコシステムを取っているからこそ、顧客に選択肢と柔軟性を提供できる」(ベダンサム氏)
外部サービスとの接続も同じ構成を取る。コスト見積もりでは、製造委託プラットフォームのXometryや見積もり自動化サービスのPaperless PartsがFusion上の3Dモデルから試算し、部品表(BOM)に反映する。AIが工作機械を認識して数値制御コード「Gコード」を自動生成する取り組みも進む。「必要な中核機能は自社で作り、その先の付加価値はパートナーの力を借りる」(ベダンサム氏)
こうしたオートデスクのAIは今後、製造業や建設業界の労働力不足をどこまで解決するのか。この問いに対しては、生産現場の設備稼働効率や人員・リソースの動線に見直しの余地があると答えた。「労働力不足が最も目立つのは、まさに工場、生産の現場だ」と言う。
ロボティクスなど「フィジカルAI」については「まだ公に話せることは多くないが、生産現場での応用を検討している」と明かした。
この記事は参考になりましたか?
- この記事の著者
-
京部康男 (編集部)(キョウベヤスオ)
ライター兼エディター。翔泳社EnterpriseZine/AIdiverには業務委託として関わる。翔泳社在籍時には各種イベントの立ち上げやメディア、書籍、イベントに関わってきた。現在はフリーランスとして、エンタープライズIT、行政情報IT関連、企業のWeb記事作成、企業出版支援などを行う。Mail ...
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
この記事は参考になりましたか?
この記事をシェア
