グランプリ企業が明かす「AI・データ・組織変革」の実践
発表会の後半に行われた選定企業ディスカッションでは、グランプリ受賞企業のリーダーたちによる、泥臭くも戦略的な本音トークが展開された。ITリーダーが直面する3つのテーマごとに、各社の取り組みを紹介する。
登壇者(順不同)
- 草野智弘氏(ブリヂストン 執行役CIO)
- 清水新氏(ミスミグループ本社 代表取締役社長)
- 磯和啓雄氏(三井住友フィナンシャルグループ 執行役専務 グループCDIO)
- 安立大介氏(日立製作所 ITデジタル統括本部 統括本部長 兼 デジタル&セキュリティ統括本部 副統括本部長)
- 【モデレーター】三谷慶一郎氏(IPA 理事 )
(左から)株式会社三井住友フィナンシャルグループ 執行役専務 グループCDIO 磯和啓雄氏
株式会社ミスミグループ本社 代表取締役社長 清水新氏
株式会社ブリヂストン 執行役CIO 草野智弘氏
PoC地獄からの抜け出し方:SMFGは大胆な予算戦略
多くの企業が「PoCを繰り返すだけで実業務にスケールしない」という“PoC地獄”に陥る中、三井住友フィナンシャルグループ(以下、SMFG)の磯和氏は、大胆な予算戦略を明かした。
「我々は2023年7月に国内従業員全員が生成AIを使えるようにしましたが、1年経って調べてみると、翻訳やメールの返信といった個人活用にとどまっていました。これではダメだということで、2024年10月に私に(5年間で)500億円の予算をつけました」(磯和氏)
5年分とはいえ、純利益の約1%に相当する額を磯和氏の差配で動かせるようにしたという。磯和氏はその効果をこう語る。
「自らの部門の予算を使おうとすると、特にAIはROIが見えにくいため萎縮してしまいます。でも、この予算の中で自由に提案していいというやり方にしたら、各部門が争って取りにくるようになった。これがサイロを壊す大きな後押しになりました。ROIを言わなくていい予算をトップにつけることが重要です」(磯和氏)
この仕組みから、取締役 執行役社長 グループCEOの中島達氏自身のAIアバターを社内向けに構築するなどのユニークな試みが生まれたという。
一方、DXプラチナ企業2024-2026に選定された日立製作所(以下、日立)の安立氏は、全社展開における「AIの解像度」の大切さを指摘する。日立では既に社内で200種以上のAI運用を開始しており、数年以内には10万種に増える見込みだ。
「2022年にChatGPTが出たとき、社内で生成AIと言うと、それぞれイメージするものが違いました。ある人はチャットを想像し、研究開発の人間は追加トレーニングしたAIをイメージするなど、話が噛み合わなかった。それを整理するために、我々はAIを『一般業務(翻訳等)』『間接部門(財務・調達等)』『事業ライン(鉄道やビルの保守等)』の3層に分類。リスクとガバナンスをセットで管理する体制を整えました。技術好きな人間がシャドーAIに走らないよう、安全な場所と環境を用意してあげることがIT部門の役割です」(安立氏)
ブリヂストンの草野氏も、「デジタルリテラシーの高い人が各業務部門に多数おり、専門領域に特化したAIエージェントができ始めている。このムーブメントをリテラシーの低い層まで広げるため、デジタルの専門部隊が現場に入り込んで一緒に伴走する体制を始めています」と語り、ボトムアップの熱量をトップダウンで支援する重要性を説いた。
AI-Readyなデータ基盤をどう構築する?
AIを真に駆動させるための良質なデータ環境について、ミスミグループ本社(以下、ミスミ)の清水氏は、データ量ではなくその「扱い方」にポイントがあるとした。同社は世界33万社の顧客に部品1個から短納期で届けるビジネスを展開している。
「今まではデータ量がありすぎて、データの中に溺れるのが実態でした。今やりたいのは、最前線の営業活動やコールセンターの音声をすべてレコーディングし、生成AIを使って商品クレームなのか、お客様の潜在課題なのかを自動選別すること。最前線で起こっているリアルタイムのデータを経営陣が把握し、意思決定していくサイクルを作っています。鮮度、粒度、頻度、精度という4つの軸でデータの捉え方を変えることが重要です」(清水氏)
清水氏はさらに、「DXが成功している会社は全部『お客様のデジタル変革』。社内でどう活用するかより、お客様にどう価値を出すか。テクノロジーだけを信じて、みんなで乗る覚悟が必要です」と熱く語った。
データ基盤の整備において、伝統的なレガシーシステムを抱える金融機関ならではの苦悩と突破口を明かしたのが、SMFGの磯和氏だ。金融の鉄則である安定運行を最優先してきた結果、同社のクラウド化率は現在8%にとどまり、オンプレミスのシステムが“スパゲッティ状態”になってデータが部門ごとに分断されていた。しかし、ここでもAIが救世主となったという。
「AIが業務にどんどん広がっていくと、データがうまく取れない不便さを全員が肌感覚で理解し、経営陣に伝わった。今や経営会議の中で『Snowflakeにあるデータはどうするんだ』『Databricksに貯めるんだろう』といったマニアックな会話が普通にされるようになっています。AIの推進が、結果的に遅れていたクラウド化を一気に進める起爆剤になりました」(磯和氏)
この「データをいかに1ヵ所に集めるか」という問いに対し、日立の安立氏は現実的な解を提示した。
「日立グループはグローバルに600社以上あり、M&Aも多いため、すべてのデータを1ヵ所に集めて分析用のキューブを作ることは不可能です。そのため今は、データを『集める』のではなく、ゼロデータコピーなどのテクノロジーを駆使してコードを合わせ、『つなげる』ことでOne Hitachiとして見える化する方針をとっています」(安立氏)
最重視された「新規事業・価値創出」
2026年度の評価で最も重視された、DXを通じた「新規事業・価値創出」の具体例として、ブリヂストンの草野氏は航空会社との共同プロジェクトを紹介した。
「航空機のタイヤは時期や使い方によって擦り減り方が違うため、計画的な整備が難しかった。そこでお客様のデータをいただき、我々のリアルな知見と掛け合わせてAIを用いた独自の摩耗予測を提供しました。これによりお客様は交換計画を事前に立てられ、在庫や残業時間を大幅に削減できました」(草野氏)
続けて草野氏は、「ものづくり現場の匠の技というリアルの強みに、デジタルを組み合わせる。バックヤードでキーボードを叩いて何ができるかというと、ほとんどない。泥臭く現場に行ってお客様と膝を突き合わせ、困りごとを深く理解することからしか新しいビジネスは生まれません」と断言する。
ミスミの清水氏も、「カタログ販売からECサイトへ、そして今は、お客様のCADの中に工場がつながっている状態を実現しています。図面を入れればAIがその場で見積もりし、即座に発注できる。我々はものづくり産業をサービス化する『ものづくり・アズ・ア・サービス(MaaS)』を目指しています」とし、デジタルモデルシフトによる売上創出をIRでも開示していると述べた。
ディスカッションの締めくくりとして、SMFGの磯和氏は、「テクノロジーの進化で解決は早くなりましたが、最初の『課題出し』は人間にしかできません。当グループでは、デジタルの人には銀行業務を徹底的に勉強してもらい、銀行員にはデジタルを勉強してもらう。この両方ができる人材を育てることに最重点を置いています」と言い、AXの時代だからこそ人間のケイパビリティが競争源泉になることを示した。
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- この記事の著者
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小山 奨太(編集部)(コヤマ ショウタ)
EnterpriseZine編集部所属。製造小売業の情報システム部門で運用保守、DX推進などを経験。
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