なぜ「リアルタイム分析」は広がらなかったのか 技術よりも根深い、“組織の壁”
第2回:企業内データがリアルタイムにならない理由 構造から読み解く、本当の原因
さまざまな企業のAI導入を支援する中で、最終的に議論の中心がAIからデータへ移る場面を数多く見てきました。「どのLLMを採用するか」「RAGをどう構築するか」といった高度なテクノロジーの選定から始まったプロジェクトが本番運用に近づくにつれ、「必要なデータが見つからない」「リアルタイムに取得できない」「部門をまたぐ情報を利用できない」といった課題に直面するのです。興味深いのは、多くの企業がその問題を認識しながらも、なかなか解決できないことです。そして、その背景には企業システムがどのように発展してきたのか。その過程で形成されたシステム構造、組織の在り方があります。今回は、リアルタイムデータの活用を阻む、構造的な要因を整理するとともに、近年あらためて注目される「データ・イン・モーション」という考え方がなぜ重要になっているのかを考察します。
なぜ企業のデータは分散したのか
前回は、多くの企業がAI活用を進めながらも、「PoCは成功したのに業務では使われない」という課題に直面していること。そして、その背景にはデータの品質や流れに問題があることを説明しました。
そして、AI時代と呼ばれている現在、「データサイロ」が課題として語られる機会が増えています。
実際にお客様と議論していて感じることは、当時を振り返ればシステムを導入することが非常に合理的な判断だったということです。ERPは基幹業務、CRMは営業、SCMはサプライチェーン、MESは製造現場、データウェアハウスは分析基盤というように、それぞれの業務に最適な製品を選択する「ベスト・オブ・ブリード(最良の組み合わせ)」のアプローチで部門ごとに業務を改善してきました。近年では、SaaSやクラウドサービスが普及したことで、「最適なサービスを必要な部門が選択する」という流れは加速しています。
つまり、現在のデータ分散は“失敗の結果”ではなく、企業が長年積み重ねてきた“部門最適化の結果”なのです。
一方で、AIは部門単位では仕事をしません。たとえば、営業担当者を支援するAIであれば、営業履歴だけでは十分ではなく、在庫状況、価格情報、契約条件、物流状況、サポート履歴など、複数システムの情報を横断して初めて適切に判断できるようになります。
ここにAI時代特有の難しさがあります。これまで合理的だったシステム構造がAI時代には、企業全体の知識を統合する上で制約となり始めているのです。
この記事は参考になりましたか?
- なぜ企業のAIはリアルタイムに動かないのか? データ基盤の構造課題を解き明かす連載記事一覧
-
- なぜ「リアルタイム分析」は広がらなかったのか 技術よりも根深い、“組織の壁”
- なぜ生成AI/AIエージェントのPoCは成功しても業務で使われないのか? 顕在化してきた課...
- この記事の著者
-
吉田 栄信(ヨシダ エイシン)
Cloudera株式会社 ソリューションズ エンジニアリング マネージャークラウド、ビッグデータ、データガバナンス、PaaS、Webアプリケーションなどの分野で、アーキテクチャ設計や実装に携わってきたソリューションエンジニア。2019年6月にCloudera株式会社へ入社。入社以前は、DXCテクノロ...
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
この記事は参考になりましたか?
この記事をシェア
