日本国内ベンダーのクラウドの将来
IT業界におけるほぼすべてのテクノロジー・プロバイダーが何らかのクラウド戦略を推進している。本連載の第1回でも述べたように各社のクラウド定義は様々だが、「所有」から「利用」へのシフトが大きな潮流となっていることは確かだ。
当然ながら、日本の国内ベンダー、通信事業者、SIerなどもクラウド戦略を打ち出している。しかし、メディア等におけるクラウドの議論は米国系プロバイダー、つまり、Amazon、Google、Microsoft、Salesforce.comなどが中心となっている。実際、クラウドの標準化やエコシステム確立の動きの中心にあるのもこれらの企業だ。
日本国内プロバイダーはクラウドの世界で影響力を発揮できるのだろうか?IT業界で何度も繰り返されてきたように、国内ベンダーは技術力には優れていながら、プラットフォームの標準化や開発者エコシステムの確立という点で米国勢に遅れを取り、市場の主導権を失うことになってしまうのだろうか。
クラウドビジネスの本質は「規模の経済」
日本国内ベンダーのクラウド戦略を考える上で、前提として押さえておきたい点は、ビジネスとしてのクラウドにおいて「規模の経済」(スケール・メリット)が重要な位置を占めているということだ。つまり、今までにない大規模な基盤を活用することで、ハードウェア、データセンター施設、要員などのコストを最小化するということだ。
実際、AmazonやGoogleは「規模の経済」を徹底的に追求している。Googleが所有するサーバは数百万台規模といわれており、世界各国に30カ所以上のデータセンターを運営している。AmazonやMicrosoftもそれぞれ数十万台規模のサーバを運営しているようだ。Salesfoce.comはやや異なる方向性を取っており、特殊なマルチテナント・アーキテクチャによりできるだけ少ないサーバ数で多くのユーザーをサポートする戦略に出ているが、それでも、共通基盤でできるだけ多くのユーザーをサポートすることでユーザーごとのコストを下げるという規模の経済戦略を取っていることには代わりはない。
最近翻訳書が出たGoogle技術者による書籍「Googleクラウドの核心」の元タイトルは、"Datacenter as a Computer"である。つまり、Googleは、データセンター全体を1台のコンピュータととらえるくらいの規模感でシステムを構築しているということだ。今後、クラウドの世界では、従来の企業向けコンピューティングとは全く異なるスケールで技術革新、そして、企業間の競争が行なわれていくことは確実だ。