企業はクラウドのどこに価値を求めるべきか
当たり前過ぎる話だが、企業ユーザーはクラウドが時代の流れであるから活用するのではない。クラウドが自社に価値をもたらしてくれるから採用するのである。基本に立ち返って、クラウドが企業ユーザーにどのような価値を提供してくれるかを冷静に検討することが重要だ。
特に、従来型の企業内システム(クラウドとの対比で特に「オンプレミス」と呼ばれることが多い)と比較して具体的にどのような違いをもたらしてくれるのかに注目する必要がある。
クラウドはコスト削減の価値を提供するか
クラウドに関するユーザー調査結果ではコスト面のメリットがクラウドの価値として挙げられることが多い。たとえばAmazon S3のギガバイトあたり月額15セントという従量制料金は確かに安価に思える。
ピークがはっきりしており、特定の時期(たとえば、年末、新年度開始時)だけにハードウェア・リソースの利用が集中するタイプのアプリケーションにおいては、クラウドの従量制料金は大きなコスト削減効果を提供する。ハードウェアを自社購入した場合と比較して、インフラのコストを100分の1程度に削減できた現実の事例も存在する。
定常的に利用されるアプリをクラウドに載せても無意味?
しかし、ハードウェア・リソースが定常的に使用されるタイプのアプリケーションではどうだろうか。たとえば、1テラバイトのストレージを常に使用する場合、S3の月額料金は約150ドルとなる(これに加えてアクセス料金とデータ転送料金がかかる)。
1テラバイトのハードディスクドライブの価格が1万円以下であることを考えれば、クラウドはハードウェアを自分で購入する場合と比較しても圧倒的に安価とは言えないことがわかる。
もちろん、公平な比較のためには、ドライブ単体の価格ではなく、エンタープライズ・ストレージのハードウェア、およびソフトウェアの価格にストレージの管理コストやネットワークコストを含めて比較しなければならないが、それでもクラウドがオンプレミスと比較して圧倒的に安いとは限らないと言えるだろう。
自家用車とレンタカーを比較するのはナンセンス
この点はオンプレミスを自家用車に、クラウドをレンタカーにたとえてみれば理解しやすい。車をたまにしか使わないのであれば必要に応じて「利用」するレンタカーが安く、毎日使うのであれば自分で「所有」する自家用車が安いということだ(図1参照)。
クラウドにすれば必ず安くなるという固定観念にとらわれ、コスト削減だけを目的に導入を選択すると思惑違いとなる可能性がある。当たり前のことだが、まずは、使用するアプリケーションのリソース利用パターンを把握して、ライフサイクルで見たトータル・コストを概算した上でオンプレミスと比較する必要がある。
なお、コストに関して言えば資産効率性の向上もクラウドの重要なメリットである。今日の企業財務においては同じ金額の支出を行なう場合でも、資産よりも経費を好む傾向がある。税制面でのメリットもあるし企業の経営指標上も有利になるからだ。(次のページに続く)