ID管理の源泉は「人事」にある──人事・財務システムのWorkdayによるC1.ai買収の意義を解釈
「マシン→AI→ヒューマン」というアイデンティティ・チェーンを制覇することの意味
Workday Rising 2026(米ラスベガス開催)においてWorkdayが行った数々の発表の中で、筆者が特に印象を抱いたのは、アイデンティティ管理のC1.aiを買収するというアナウンスだった。AIエージェントを組織の一員として考慮した業務プラットフォームになるためには、必然的な進化かもしれない。しかしそれ以上に、もともと人事システムとして“ある意味で”ヒューマンアイデンティティを司ってきたWorkdayが、あらゆるアイデンティティの管理能力を獲得したことが何を意味するのか。本稿では、同社の幹部たちが語った買収の背景をもとに、その意味を解釈する。
なぜ、アイデンティティ管理が最後のピースだったのか
Workday Rising 2026のキーノートにて、ステージ上に立つCEO兼会長のアニール・ブースリ氏と、製品・技術を統括するゲリット・カズマイヤー氏。そこへもう一人やってくる。今回、Workdayが買収を発表したC1.aiの共同創業者兼CEO アレックス・ボヴィー氏だ。
【左】アニール・ブースリ氏(Workday 共同創業者 CEO兼会長)
【中】アレックス・ボヴィー氏(C1.ai 共同創業者兼CEO)
【右】ゲリット・カズマイヤー氏(Workday 製品・テクノロジー担当プレジデント)
ボヴィー氏は、かつてはOktaで製品リーダーを務めていた人物だ。そこから独立してConductorOneを創業し、2026年4月にC1.aiへとリブランディングした。ちなみにブースリ氏もまた、かつてOktaとは深い関わりがあった。同氏がベンチャーキャピタリストだった頃、Oktaを資金面で支えた過去がある。そんな2人が今回、同じステージの上に立つこととなった。
アイデンティティこそが、現代企業のコントロールプレーン(制御層)であるとボヴィー氏。AIエージェントがシステムの間を行き来し、ヒューマンワーカーと肩を並べて自律的・能動的に協働する時代には、それを制御する基盤としてアイデンティティ管理が欠かせないと指摘する。
Workdayはまさにこの数年、人とAIによる協働の在り方をどうデザインするかに心血を注いできた。その中で、人事・財務というミスが許されず精密性が求められる分野で、どう確率論的に動くAIエージェントを信頼して使えるようにするかは、毎年向き合ってきた課題だった。2025年には、ベンダーや部門、各個人にまたがるAIエージェントを一元管理できる「Agent System of Record」などを発表し、Lawless(無法)な動きをするAIをLawful(秩序ある)なAIへと導くための決定論的なガードレールを築き上げてきた。
そして今回、C1.aiが加わることですべてのピースがそろうとブースリ氏。これにより、既に一元管理が可能となっているAIエージェントを、それぞれリアルタイムで統制できるようになり、各エージェントが導入されてから引退に至るまでの全ライフサイクル段階において、安全なシステムへの接続を確保できるとした。自動でのアクセス管理・制御と一貫したポリシー・権限の適用により、人間はそのまま適切かつ信頼できるアプリケーションへアクセスできる。
C1.aiは、人間によるアクセスをリアルタイムでオーケストレーションし、エージェントのためのランタイム執行を支える層として機能する。新たな従業員が入社すると、一人ひとりが使うエージェントの権限を適切に調整・カスタマイズし、退職時にはすべてのアクセスを遮断・停止する。各エージェントのシステムへのアクセス権限については言うまでもない。
なぜ、単独でアイデンティティ管理プラットフォームとしての道を歩むのではなく、Workdayへの参画を選んだのか。Workdayとはもともと人事を司るプラットフォームであり、人事とはすなわち、ヒューマンアイデンティティを扱う世界である。そして、ここ数年でAIエージェント(AIワーカー)という、従来のマシンアイデンティティとは異なる「人のように自律的なアイデンティティ」が組織に融合してきた。
この2つのアイデンティティを組織の中で分断なく管理し、人的資本やAI資産のポテンシャルを最大限に活かすためには、プラットフォーム全体にわたるアイデンティティ管理の層が必要となったわけだ。これからは、誰にどんな権限が与えられているのか、あるいは与えるべきかを、人とエージェントの双方に対して考えなければいけない。反対に、これらを担保できる層がWorkdayの中に備わっていれば、誰もが安心してAIをコーポレート業務に導入し、かつそのAIの管理まで一元的に可能な世界が実現する。この世界観に共感し、ボヴィー氏はWorkdayとともに歩むことを選んだという。
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名須川 楓太(編集部)(ナスカワ フウタ)
サイバーセキュリティとAI(人工知能)の分野を中心に、ソフトウェア/ハードウェアを問わず国内外の最新技術やルールメイキング動向を取材。そのほか、DX推進、IRなどのコーポレート領域でも情報を発信。※取材のご案内等は個人のメールアドレスか、EnterpriseZine編集部の問い合わせ窓口にお願いいた...
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