2026年10月26日(現地時間)、米国ラスベガスで「Oracle AI World」が開幕した。オープニングの基調講演、アプリケーション開発担当エグゼクティブ・バイスプレジデントのクリス・レオーネ氏によるSpotlightセッションで示されたのは、企業向けAIの役割を「人の作業の支援(Assist)」から「業務の遂行」へと引き上げる方針だ。人間が目的とガバナンスを定め、AIがその枠内で業務を最後までやり切る。Oracleはこれを従来の「System of Record」に対する「System of Outcomes(成果創出システム)」と呼ぶ。その中核を担うのが先行して発表された、AIエージェントの実行環境「Oracle Fusion Claw」だ。今回はこれに加え、ユーザーが業務を指示する入り口となる「Oracle Fusion Companion」「Oracle Fusion Agentic Home」と、導入作業をAIで自動化する「Oracle Fusion Setup and Configuration Registry(FSCR)」も新たに発表された。
有能な機械ではなく、「より有能な人間」を
Oracle AI Worldの基調講演に登壇したOracle 共同CEOのマイク・シシリア氏は、AIの役割がビジネスの現状を可視化することから「次に何をすべきか」を自ら導き出すことへと移りつつあると述べた。その上で同氏は、「私たちがAIに求めているものは、単なる有能な機械ではなく、より有能な人間です。テクノロジーが複雑な業務を引き受けることで、人間が考えること、創造すること、問題解決に挑むこと、そして互いに向き合うことに多くの時間を割けるようにすることこそが、私たちの目指す未来です」と話す。
業務効率化よりも人が考え、創造し、人と向き合う時間をどれだけ取り戻せるか。シシリア氏の言葉からは、OracleがAIの価値をどこに置いているのかがうかがえる。
ERPや人事などの業務アプリケーションは、これまで取引や人事情報を正確に記録・保持する記録システム(SoR)として使われてきた。そこでは人間が画面遷移や入力手順を覚え、自ら操作して業務を進める必要がある。これに対しOracleが打ち出す成果創出システム(SoO)では、人間は達成したい成果と守るべきルールや権限の範囲を定義すればよい。その先の実行は、AIが担う。
先行発表の「Fusion Claw」 推論はLLM、実行は計算エンジンに
成果創出システムでAIによる“実行”部分を受け持つのが、9月30日(日本時間)に先行して発表された「Oracle Fusion Claw」と、これを搭載した「Oracle Fusion Agentic Applications」だ。Fusion Clawは、Fusion Applicationsが蓄積してきた業務データ上で動く、ガバナンス機能を備えたエージェントの実行環境(ランタイム)である。財務分析、サプライチェーン計画、要員の最適配置といった専門性が高く複雑な業務(Specialist Work)を大規模かつ長時間にわたって自律的に処理できる。
Fusion Clawの上では、AIエージェントが業務分析から実際のトランザクションの実行までを受け持つ。当然ながらAIに実行まで任せる以上、勝手な処理をさせないためのブレーキも必要となる。その役割を果たすのが「Enterprise Operating Envelope」だ。組織の目標やポリシー、標準業務手順、承認要件などをまとめたルール群で、エージェントはこのルールと与えられた権限の中で動く。業務が終わると、適用したポリシー、判断の根拠としたデータ、実行したアクションを記録した「Outcome Receipt」を生成。後から監査できる記録を残すことで、AIに実務を任せる際の透明性を確保するという。レオーネ氏は、この設計を「AI with receipts(受領書付きのAI)」と表現した。
技術面で目を引くのは、LLMの使いどころを絞った実行アーキテクチャだ。大規模言語モデル(LLM)は問題の理解や計画の立案といった推論の部分にだけ利用する。そこで組み立てた実行ロジックは同じ入力に対して常に同じ結果を返す、決定論的な計算エンジンに渡して処理する。LLMに大量のデータを直接読み込ませると、一度に扱える情報量の上限(コンテキストウィンドウ)をすぐに使い切り、トークン課金によるコストも膨らむ。役割を分けることでこれを避け、数百件から数百万件規模のデータ処理やシミュレーションを高い精度と低いコストで実行可能だ。さらに、過去の実行結果やコンテキストを次の業務に生かす「クロスアウトカム・ラーニング(Cross-Outcome Learning)」により、推論にかかる時間を最大50%短縮できるという。
講演で披露されたデモンストレーションでは、3つの業務領域での適用例が示された。サプライチェーンの出荷積載計画では117件の注文を自動統合し、トラックの積載率を61%から88%に高めて5万8000ドルのコストを削減している。医療や人事の要員配置では制約条件を緩めた複数のシナリオをシミュレーションし、シフトの充足率を70%から99%に改善。財務では子会社間で生じた240万ドルの差異を分析し、決算準備用の資料一式(決算準備パック)を自動で作成してみせた。
現在提供されている75のAgentic Applicationsのうち、Clawに対応するのは25。独自の拡張にはノーコードの「Oracle AI Agent Studio for Fusion Applications」のほか、VS CodeやCLIを使ったプロコード開発も選べる。
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谷川 耕一(タニカワ コウイチ)
EnterpriseZine/DB Online チーフキュレーターかつてAI、エキスパートシステムが流行っていたころに、開発エンジニアとしてIT業界に。その後UNIXの専門雑誌の編集者を経て、外資系ソフトウェアベンダーの製品マーケティング、広告、広報などの業務を経験。現在はフリーランスのITジャーナリスト...
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