3人に1人は必要な情報にアクセスすることなく重要な意思決定を下す
ビジネスパートナー向けの限定セッションを除けば初日となる25日は、ミドルウェア・ソフトウェア部門のシニアバイスプレジデント ロバート・レブランク氏によるグランド・オープニング・セッションでスタート。氏は、調査データや先進企業の事例を参照しながらビジネス・アナリティクス の重要性を示し、期間中に予定されている新製品発表やキーノート・セッションへの橋渡しを行った。
「今年はついに参加者が10,000人を突破した。ビジネス分野の情報活用に注目が年々高まっていることを感じる」。早朝にもかかわらずマンダレイベイ・コンベンションセンターのスタジアムに詰め掛けた多くの参加者を前に、レブランク氏は企業をとりまく現状について分析する。
「情報の活用に注目が集まる背景には経済不調がある。そもそも、この領域が大きく発展した発端はドットコム・バブルの崩壊であったし、今回も08年の経済危機がひとつのきっかけになっている」(レブランク氏)。つまり、経済状況の転換によって痛手をこうむった企業達が将来を見通したいと希望するようになっているというわけだ。
データからビジネスに有益な情報を引き出すことの重要性について異存がある人はそれほど多くはないだろう。今年初めにIBMが CIOを対象に実施した調査によれば、もっとも重要な技術としてビジネスアナリティクスをあげたという。反面、各企業の実情は残念ながらそれほど芳しいものではないようだ。
「意思決定を行う人々にとって恐ろしいデータがここにある。これによれば、3人に1人は必要な情報に基づくことなく意思決定を下しており、2人に1人は必要な情報へアクセスするための手段を持っていない。そして、4人に3人は意思決定に関わる予測可能な情報があれば、自社や顧客にとってより良い意思決定を下すことができただろうと答えている。ある調査では72%の意思決定者は社内よりもインターネットから情報を取得するほうが容易であるという結果さえ出ている。つまり、ビジネスに関わる意思決定と情報の間にはギャップがあり、私達はそれらを埋めるための対応をしていかなければならないということだ」(レブランク氏)。
情報活用を成功させるために必要な3つの要素
では、企業が情報活用を成功させるために必要な要素とは何か。すでに一定の成果を収めている企業とコミュニケーションを重ねる中で、レブランク氏は彼らにいくつかの共通するポイントを見出したという。
ひとつはインフォメーション・アジェンダを策定すること。情報活用の最終的な目的がビジネスを牽引するための武器を引き出すことにある以上、会社内に存在する情報がビジネス戦略と合致していなければならない。だから、情報活用の担当者は事業部門の幹部と話し合い、ビジネスプロセスと情報のすりあわせを行う必要がある。ビジネスの目的に合致していない情報活用などはありえないということだ。
ふたつめは、情報の統治を行うこと。適切な経営判断を行えるかどうかはそれに用いる情報の精度に大きく依存する。「情報の質が悪ければ、質の悪い意思決定しかできない」(レブランク氏)。誤った情報でビジネスの足を引っぱるような事態に陥らないためには、その品質を担保するための仕組みを整える必要がある。
そして最後にくるのがビジネス・アナリティクスの適用である。ここでいうのは単に情報を引き出すということではなく、ビジネスの行方がこの先どのように変化するか予測する、そのトレンドを読むといったことを意味する。トレンドを先読みして、他社に先駆けて製品を投入できれば間違いなく競争優位性を獲得することができる。
レブランク氏の見立てによれば、どのような業界であれ情報活用に成功している企業は共通してここにあげた三段階を経ている。「国や業種を問わず、どんな企業であれ自分達よりも上手なやり方を行っている企業が必ずいるもの。それはとりもなおさず、ビジネスとして遅れをとってしまうことを意味する」のだから、アナリティクスはもはや避けて通れない存在になっていると氏は説明する。
インフォメーション・アジェンダ、正確なデータ、アナリティクスという三つの要素がそろった先に待っているのはイノベーションだ。最近では、イノベーションを加速するためのテクノロジーも揃ってきている。あらゆる情報を収集・結合するために必要なデバイスとネットワーク環境、それら膨大な情報を処理するための基盤としての仮想化・クラウド技術、音声やWebコンテンツなどを解析するための非定型データの処理技術、刻々と変化する状況をリアルタイムに解析するためのストリーミング技術、人的リソースをより生産的な活動に振り向けるための管理業務の自動化。かつてバッチでデータを処理をしていた頃よりも遥かにビジネスの革新を推進できるはずだと述べ、期間中に実施されるセッションへ参加者をいざなった。
使いこなせるBIツールへ
同日午後のキーノート・セッションでは2007年にIBMが買収したビジネス・インテリジェンス・ソフトウェアCognosの最新バージョン「Cognos 10」を発表。ステージに上がったビジネス・アナリティクス部門のゼネラルマネジャー ロブ・アッシュ氏は「Intelligence Unrelease」というメッセージとともに、ユーザーインターフェースを一新したCognosがビジネス分析に革新をもたらすことを繰り返し訴えた。
これまでバージョンアップの度に新たなビジネス分析のための手法を取り入れてきた同ソフトウェアが利便性の向上に重点を置いた背景には、ビジネス・インテリジェンスがごく一握りの人が行うべきものではなく、最前線の現場にいる人々に必要な情報を届ける必要性があるという課題意識がある。
ユーザビリティの向上に多額の投資を行い、インターフェースをよりわかりやすい設計とし、映像を中心とした教育素材を揃え、各業界に特化した「青写真」などを用意することで利用者がビジネス分析をより容易に行える環境を整えた。期間中は、Cognos 10の詳細な内容について解説するブレイクアウト・セッションも催されており、参加者の人気を集めている模様だ。
IBM Information On Demand Conferenceは、TivoliやWebSphereなどIBMが擁する5つの主要ブランドのうち、情報管理や情報活用の分野を担当する「Information Management」ブランドが主催するカンファレンス。期間中は、テクノロジーやビジネスなどの切り口で用意された数百のセッションと、IBMが主催するものとしては最大級の展示会が催される。