会社はでっかい動物園、じゃあ動物園はでっかい何ですか?
「パパ、どうして会社にどうぶつがいるの?」
「あれはどうぶつ社員だよ」
さて、どうぶつ社員の話です。
どうぶつ社員というのは、考えてみると
一日駅長を一生続けさせられるようなものですね。
「パパ、社員はなにを食べるの?」
「1日におよそ2トンの野菜屑だよ。そのほかに、粉砕した
ペットボトルを食べることもある。これは懲罰としてね」
どうぶつ社員に任ぜられるのは、たいていはかわいい動物です。
バリバリ仕事できそうなタイプの動物はなぜか敬遠されがちで、
人間だったらあきらかに就労年齢に達してなさそうな
ふるふると焦点の定まらない仔犬であったりもします。
「パパ、社員はどんな仕事をするの?」
「もっぱらデスクワークだね。仕事机の天版をはがして、
曲げて筒状にしたり、細かく粉砕してパルプ状にしたり
するんだ。放っておくとそれを食べてしまうので、
作業後は電気などを使って社員を遠ざけるんだよ」
どうぶつ社員といっても、考えてみればその種類に大した
バリエーションはないものですね。
たいていは結局、犬が選ばれることになるのでしょう。
猫が多くないのは、さすがに働かなさそうなイメージが
強すぎるからでしょうか。
「パパ、社員は通勤電車に乗れるの?」
「通勤電車に乗せることは法律で禁じられているよ。
社員は基本的に会社からでることはないんだ。
どうしても移動しなければいけないときは、深夜に
専用のトレーラーで運ぶんだよ。そういう必要が生じる時は
たいていすでに死亡しているので、運びやすいんだ」
社員犬、社員猫はまず問題ないでしょう。
社員ガチョウ、社員オウムなんかもいけそうです。
社員馬、社員牛となるとちょっと微妙になってきます。
使役どうぶつはやっぱりそのまま畑を耕したりしていそうな
イメージがあるからなのでしょう。
「パパ、社員はお給料をもらえるの?」
「社員はもちろん給料をもらえるよ。法律で保証されている
権利だからね。基本的に現物支給で、野菜屑の形で支払われるよ」
社員ハイエナ、社員ハゲタカあたりに対する
拒否反応は、ちょっとかわいそうなくらいです。
スカベンジャーはダメ!
おかしなことしたいベンチャーでもそれはダメ!
そういった残酷な価値観が厳然と存在するようです。
「パパ、社員は歓迎会をやってもらえるの?」
「とても盛大にやってもらえるんだよ。どうぶつ社員は
聖なる存在だから、それを社にお迎えできるのはとても
光栄なことなんだ」
社員ナマケモノ、はどうでしょうか。
このあたりには微妙なラインがありますね。
「社員のかわりになまけてくれる」とか、
言いくるめ方によってはオーケーとなってしまいそうな
危険な気配を感じます。
まあしかし常識的に考えて、オフィスにナマケモノが
ぼんやりとぶら下がっている光景が著しく勤労意欲を殺ぐ
ものであることは否定しようがないでしょう。
かくして、また一つのベンチャーが珍妙な社内ポリシーと
運命をともにすることになるのです。
こういう部分において、ベンチャーは懲りるということが
ありません。
「パパ、社員には組合はあるの?」
「社員に組合はないよ。そのかわり、ファンクラブがある。
ファンクラブは全員目隠しをして社員をなでまわすんだよ。
そうすると、社員が幸福になると信じられているんだ」
どうぶつ社員の急増の一方で、社員のどうぶつ化も
問題となっていますね。
社員のどうぶつ化は、ナマケモノ化とハダカデバネズミ化の
二つに大きく分けることができ、後者のほうがはるかに深刻です。
ベンチャーはこの問題を軽視しがちですが、
その結果としてしばしば泡のように消滅します。
「パパ、社員は自由になれないの?」
「社員は自由だよ。すべての存在が本質的に持っている自由を
社員もちゃんと与えられているんだ。しかし、その自由を
行使することはない。それは社員が聖なる存在であるからで、
社員自身もそのことをよく知っているんだよ」
「パパ、あれも? あれも社員?」
「あれは自由業だよ。自由業についてはお前がもっと
大きくなったら話してあげよう。いまはあれからなるべく
目をそらしておきなさい」