エバンジェリストにきいてみよう! (*きょうの運勢はサポート外です)
「この会社でエバンジェリストをつとめるようになって、
今年で8年になります。
エバンジェリストといっても、特に決まった定義があるわけでは
ないので、会社によってその業務の内容は違うんですが、
とりあえず、僕の仕事は自社の製品やサービスの紹介を通して
みなさんに自社への良いイメージを持ってもらうこと、
それから、ときどき派手に嘔吐することです。
これがむしろメインといえなくもないというほどに
ぼくの嘔吐は好評なんです。とてもカラフルなんですよ。
いろいろとコツがあるんです。日々の鍛錬も重要です。
おかげさまで、順調にキャリアを重ねてきましたが、
ここ数年、大きな意識の変化がおとずれました。
プレゼンテーションの面白さというのは、
むしろメッセージが正しく伝わらなかった瞬間に
あると思うようになったんですよ。
きっかけは1枚のスライドでした。
まったく笑いを意図したものじゃなかったのに、
映し出した瞬間に、会場が大爆笑に包まれたんです。
いままで見たことのない、完全な一体感がそこにありました。
あとで何人かに伺ってみたら、スライドにあった
円グラフが、そこまでの話に対する完璧なオチに
なっていたというんですよ。
僕の話した内容が微妙に誤解されつづけて、長い長い
ギャグの前フリとして機能したらしいんですね。
ぼくはそこに大きな可能性を感じたんです。
間違って伝えることの喜びに目覚めたというんでしょうか。
こちらがまったく意図していない内容を、その場の聴衆の
全員が、100パーセント同じ形で受け取ったとしたら、
それはもう正しいことだと思うんです。
そういう形でしか知ることのできない世界の真実が
きっとあるんじゃないかと思ったんですよ。
だから、ぼくはそういう瞬間にまた出会えないかと
思うようになりました。
そのうちに、そういう瞬間を自分からつくりだすことが
できるのではないかと、考えはじめたんです。
そういった瞬間を呼び込むためには、どうやら、
プレゼンテーションする内容が、ある種の明確さと
抽象性の両方を兼ね備えている必要があるんですね。
もちろん、本来のエバンジェリスト活動としての目的も
はたす必要があります。
これはとても大きなチャレンジでした。
そうして、ここ数年いろんな場所でためしてみた結果、
いくつかの成功にめぐまれました。
そのうちの一つの映像がありますので、お見せしますね。
ここでぼくは自社ソフトの使い方を説明してるんですが、
意図的に、発音を微妙に不明瞭にしていったんです。
そうしながら、微妙に文字の読みとりにくいスライドを
表示していきます。
すると、オーディエンスが受け取るプレゼンの内容が
文脈から完全に逸脱して、こちらの意図をまったく離れた
「気づき」が発生します。
ここで、僕がプルダウンメニューを引き出して見せた瞬間に、
客席全体が、雷に打たれたみたいになるんですよ。
カメラが見事にその瞬間をとらえていますね。
ほら、わかりますか? 全員おなじ表情になっていますよね。
終わってからアンケートを実施すると、この「気づき」を
かなり高い精度で抽出することができるんです。
このときは、「断食は週の始めに行うのが正しい」という
気づきが得られています。その後、ほんとうに実行して
みた方もいらっしゃるみたいですね。
もうすでに、けっこうな数の気付きが集まっています。
まだそれぞれの気づきの関連はわからないんですが、
あとひとつかふたつで、すべてのピースがおさまるところに
おさまって、世界の大きな秘密が明かされるような気が
するんですよ。
ところで、どうしたらカラフルな嘔吐を出力できるか
お知りになりたくありませんか?
今度有料のセミナーを開催する予定なんですよ。
よろしかったらぜひご参加ください。
当社のロゴの入った洗面器を参加者全員にプレゼントしてます」
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倉田 タカシ(クラタ タカシ)
「ネタもコードも書く絵描き」として、イラストレーション、マンガ、文筆業、ウェブ制作、Adobe Illustratorの自動処理スクリプト作成など、多方面で活動。
イラストの他に読み札も手がけた「セキュリティいろはかるた」はSEショップより発売中。
河出文庫「NOVA2-書き下ろし日本SFコレクション」...※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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