2010 年代はビッグデータビジネスが隆盛する
2011年以降の情報・通信に関する潮流として、「ビッグデータビジネス」の立ち上がりが予想される。ビッグデータビジネスとは、「大量のデータを収集・解析することにより、事業の付加価値をより高めるような営み」を意味する。
もちろん、過去にもこのような取り組みは試みられてきた。データマイニング、ビジネスインテリジェンス、果ては、センサーネットワーク構想やユビキタスネットワークなども、似たような考え方のもとに提唱された概念と言える。しかし、様々な概念が提唱される中で、市場としての拡大に至らなかったものや、活用シーンが特殊な用途に限定されていたものも少なくなかった。
本稿では、2011 年というタイミングにおいて、ビッグデータビジネスが隆盛しつつあると考える背景とその可能性について概観する。
クラウド利用の進展が、ビッグデータビジネスを促進する
ビッグデータビジネスは、クラウド利用の進展に促されて進むと考えられる。本項では、情報システムのユーザー企業および提供事業者を取り巻く状況を検討する。
ユーザ企業におけるクラウド利用がビッグデータビジネスを促進する理由として、クラウドを利用する環境では「サーバーにデータが集約されること」を第一に挙げられる。サーバーにデータを集約することは、ビッグデータをつくるための基本的な環境整備となるものといえるためである。もちろん、データの収集と蓄積に際し、データの整合性をどのように確保するかといった課題の解決は別途求められる。
「データから知見を導出する」という点は以前からの関心事項であるが、「サーバーにデータが集約されること」の効能については、クラウド利用が拡大しつつある直近において注目するべき事項と言える。また、年々苛烈さが高まるユーザー企業の競争環境の中で、より効率的で確実な施策を求める期待感も、ビッグデータビジネスの促進につながるだろう。
併せて、情報・通信サービスの提供事業者においても、クラウド利用の進展により、ビッグデータビジネスへの取り組みに傾注する事業者が増加すると考えられる。ここでの提供事業者とは、システムインテグレータなどの情報システム開発に関連する事業者が第一に相当する。
ビッグデータビジネスにおいては、取り扱うデータの中身にまで深く踏み込んだ理解が求められるため、多くの既存提供事業者にとっては容易ではない。そのような中で、なおビッグデータビジネスに傾注が進むと考える理由は、これまでとは異なる収益源の必要性が高まるためである。
この背景にクラウドの利用の進展に伴い、従来の情報システム開発市場が、縮小することへの危惧がある。クラウドに対するユーザー企業からの期待として、情報システムに係る総費用の低減がある以上、オンプレミス型のシステムからクラウドへの移行時には縮小遷移が生じることは避けられないためである。そのような中で、事業規模や成長を維持するためには、従来不慣れであった領域も新事業領域として開拓することが必要になると考えられる。
もちろん、市場縮小の中で既存提供事業者が講ずることのできる施策は、ビッグデータビジネスだけではない。顧客の母数を増加させるための「グローバル展開」や、「顧客セグメントの拡大(例えば中小事業者の開拓等)」を行うといったことも想定できる。そのなかで、ビッグデータビジネスは「顧客単価を上げるための施策」と位置付けられる。クラウドの利用進展に伴い、縮みゆく情報システム部門の予算を狙っている限り、顧客単価の向上には限界がある。今後、提供事業者は、情報システム部門以外の事業部門の予算を狙う必要性が増すことになるだろう。各事業部門への訴求を行うという観点からも、ビッグデータからの知見導出は汎用性のある施策と考えられる。
これは決して簡単なテーマではないが、提供事業者が一般に理念として掲げる「ユーザーへと付加価値を提供するICT」を体現するものであり、情報・通信サービスの提供事業者が施策を講ずる蓋然性は高いといえよう。(次ページへ続く)