クラウドの本格適用フェーズで求められる全体最適の条件
NECでは、クラウドコンピューティングを支える次世代基盤として提唱しているReal IT Platform G2の強化を継続している。その中で2011年2月28日、サービス実行基盤、システムサービス管理、高効率インフラストラクチャの三つの視点で既存製品の強化や新製品投入を行うと発表した。
今回の強化方針の背景について同社の小室博ITソフトウェア事業本部統括マネージャーは「今後クラウドの活用が進み、本格的に適用される段階に至ると、適材適所なシステム環境、ヘテロな環境を全体統合した全体最適システムが求められる」と語る。
現在、企業のクラウドの活用が進んでいる背景には、企業を取り巻く環境の変化が加速するなか、ICTの機動的な活用と同時にコスト削減が求められている。従来では主にコスト削減の視点でパブリッククラウドを使い、業務の一部を移行していた。今後は、基幹業務を含めた本格的な活用を検討する段階に入るとみられている。
ただ、クラウド活用による効果への期待が大きい中で、基幹システムでの利用についてはセキュリティや安定性、本当にコスト削減につながるか、などの懸念がある。また特定のベンダーにより囲い込まれるベンダーロックインにより、自社にとってそれぞれの業務に最適なシステムを得られるのかという不安もある。同時に、既存のIT資産も可能な限り活かし生かしたいというニーズもある。
そのニーズを満たすには、プライベートクラウドで構築された基幹システムや、パブリッククラウド活用システムなど、それぞれの業務に応じてコスト、サービスレベルを判断し、最適なシステム、サービスを選択する必要がある。さらに小室氏は「マルチベンダー、異なる複数のプラットフォームで構成された“適材適所”のシステム全体を仮想的なクラウド環境としてみなし、統合的に管理、運用、活用できるようにすることがポイントになる」と語る。
クラウドサービス、データセンター運用の効率化と自動化を実現
今回発表された、全体最適システムを実現するクラウド共通基盤ソフトウェアの強化の対象領域は大きく、サービス実行基盤、高効率インフラストラクチャ、システムサービス管理になる。
まずシステムサービス管理の強化では、統合運用管理ソフトウェアWebSAMシリーズとして新たに2製品を提供する。クラウドサービス管理機能を担う「WebSAM Cloud Manager」は、既存システムやパブリッククラウドとのサービス間連携機能、企業内の複数クラウド環境の統合管理機能を提供する。クラウドサービスそのものに加え、個々のサービス利用者やテナントへの管理も可能だ。
NECだけでなく、VMwareやマイクロソフトなどのISVやOSSのクラウド技術により適材適所で構築されたヘテロなクラウド環境を一つのビューで見える化する。全体のリソースプールを統合管理し、リソース配分、クラウド間でのリソース融通等の意志決定を支援する。ポイントは多様なクラウド管理環境との連携により、配備リソースに対する均一な運用レベルが実現される点だ。加えて既存システム、パブリッククラウドサービスとの連携も支援する。
NECは、DMTF、OCCI、OpenStack、OpenGridForum、UN/CEFACTなどの団体と、標準化活動に取り組んで来た。インターフェース等の共通化ができれば、一つの言語で様々なスタックとのやりとりが可能になる。もちろん、それぞれの団体、ベンダーなどの思惑もあり、標準化は容易ではない。そこで「お客様の課題にすばやく応えるために、先行して各スタックとの連携を直接行っている」と小室氏は語る。
一方、データセンターの運用を自動化する「WebSAM vDC Automation」は、運用管理やリソース切り出し等、データセンタの自動化に必要な各種機能のスイート製品だ。オーケストレーション機能とプロビジョニング機能によるリソースの最適配備を行ない、連動して、配備リソースに対する運用管理設定を自動的に行い運用負担を軽減する。
また、エラーメッセージなどに頼った従来の性能分析では見えなかった障害をシステムの“振る舞い”の変化から自動検知する、NEC独自のインバリアント分析技術をクラウド環境下でも活用する機能を盛り込む。現状分析による障害予知に加え、ユーザーの増加見込みに対する性能予測モデルにより、問題発生前に強化すべきリソースを推測するキャパシティプランニング機能も有用だ。