「ネットがつながらなければ我々の存在価値はない」
再び仙台に戻り、泉区に本社を置くグレープシティを訪ねる。
被災地と呼ぶには違和感があるくらい、見た目には平穏無事に見えるグレープシティだが、ウェブや各種サービスを提供するサーバーは、外部のデータセンターを利用しておらず自社にあったため、すぐに機能がダウンしてしまったという。
「電源もだめ、ネットワークもだめ、サーバールームの無停電装置(UPS)が作動している数十分だけしのいだようだ、というくらいです」―と、当時の様子を振り返るのは、グレープシティの福地雅之氏だ。
14日には海外のオフィス、アメリカのデータセンターにトップページのみを載せ、電源も復旧した。しかし、通信回線の帯域が社外にサービスを提供できるレベルに達しないため、サーバー群は部分的にしか公開できず、最終的にすべてのサービスをインターネット上で再開できたのは10日後だったという。
「復旧して情報システムを立ち上げなおしていく、そのプロセスで、インターネットがないと、うちのような企業は存在価値すらないと実感しましたね。サポートもできない。製品出荷もできない。アメリカにあるサーバーに一部を移して復旧できたのは、インターネットのおかげですしね」
業務の平常運転は1週間後。しかし、今度はガソリン不足で社員が出社できない。
「在宅勤務で済めばいいのですが、うちがいちばん復旧したかったのはサポート業務です。サポートセンターができるほど在宅環境は整っていなかった。サポート業務は、在宅でクラウドで…といったように、かっこよくできるものではないんですね。検証用のPCでも多種多様な環境が必要になる。従来と同様の品質、スピードでお客様のサポート環境を復旧したいが、サポートメンバーが出社できない」
実は、グレープシティが仙台にあることが意外と知られていなかったこともあり、震災当初は、営業拠点である関東支社に問い合わせが集中したという。
ただ、電気と回線のない状態の無力さを感じる半面、立ち直りの早さもITならではだと福地氏は言う。
「もう、僕たちは被災側ではないと考えている。一時は存在価値があるのだろうか、と思うほどでしたが、立ち直ってみれば、IT業界は再起動がはやい。電源と通信回線がないと打つ手はないが、逆にその2つが復旧さえすれば立ち直りがはやい。それは今回気がついたことです」
ITでいえば仙台トップ企業であるグレープシティ。今後被災者支援としては「これから何ができるか相談していきたいが、長いスパンで考えれば、再起動の早いIT業界で継続的に雇用を生み出す仕組みづくりを目指して地場に貢献していきたい」とのことだ。