仙台のIT企業を訪ねて
4月6日夜、東京を車で出発し、およそ5時間。仙台付近のサービスエリアで車中泊の後、あくる7日朝、仙台を拠点とするIT企業であるトライポッドワークスを訪ねる。
迎えてくれたのは、トライポッドワークス 代表取締役社長の佐々木賢一氏。トライポッドワークスを立ち上げる前は、日本オラクル東北支社長を務めていたという佐々木氏。
もともと仙台に生まれ育ち、日本オラクル東北支社開設と同時に支社長に名乗りを上げた。現在は、ベンチャー企業の社長として東京と仙台を往復する毎日だという。週のほとんどを東京での活動にあてているが、震災当日は、たまたま仙台に居合わせた。
この佐々木氏に、今回の被災地訪問の案内役もお願いすることになった。まずは、佐々木氏自身の震災時の様子を聞く。
「Twitter、Facebookなどを使い、1時間少しで社員全員の安否確認がすみました。その後、早急にHPを書き換えろということになりました。仙台が壊滅したかと思われて、顧客に不安を与えてはいけない、と。ですので、11日の午後6時には、今日は営業中止するが月曜日からまた営業するといった旨のメッセージを出しました。けっこうHPは見られていたようですね」
土日は自身も避難所生活を余議なくされた佐々木氏。ITベンチャー社長としての戦いは、14日月曜日から本格化する。
「うちはセキュリティアプライアンス製品を売らないことにはやっていけません。4月14日は、18台のバックオーダーを抱えていました。11日の残りの分ですね。うちの案件は1件1件は数十万くらいのものです。なおかつ、販売パートナー経由でお客さんの元に設置しないと売りがたたない。これは、販売パートナーの営業の方々にとっても同じです。これを4年間、3,000社に遅滞無く納期を守り続けたことで、販売パートナーに信用してもらえているのです。震災があったからと言って、納期を遅らせることはできない。この信用を失うと、事業として成り立たないんです。しかも、毎日、着々と売らなければいけません。たとえば月末にため込んでしまうと、仮にたくさん売れていたとしても、設置する人がボトルネックになってしまう。ですので、足し算ではなく掛け算。金太郎飴のように、同じものを同じように売り続ける。受注して、3日後に設置する。これに遅れる商品は営業が扱わなくなる。今回、ここが滞るのが一番困ったというわけです」
この時点で、業務を停止させるつもりはなかったという佐々木氏。まず、物流の情報収集を行った。宅急便も道路もすべてストップしている。同じ仙台で活動する同業者との情報交換で、「新潟からのルートで調整できそうだ」との情報を得る。車に50台のアプライアンスを搭載。山形出身の土地勘がある従業員を運転手に、山形経由で新潟へ。新潟から宅急便で東京へと運んだ。
「なんとか月曜日はしのいだものの、まだ80台残っていました。結局、2日間でトータル120台を新潟へ運びました。水曜日には物流拠点を東京に移し、受発注はメールで行い、事なきをえました」
この有事の際に、アプライアンスの到着期日にそこまでの努力がなされていたとは驚きだが、実はこの一件でトライポッドワークスの信頼がとても強くなったという。
「東北だけでなく、東京も混乱してましたからね。こんなときでも製品が届いたっていうのは、噂としてかなりひろまったようです。トライポッドの製品だけ手に入るねということで、ある意味特需になりました。3月期末という事情もありますが、営業が集中し、営業機会が増えましたね」