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コンシューマー機器はネットワーク化する時代へ

(第17回)


コンシューマー機器は、ネットワーク化する時代へ

 コンシューマー機器でのもうひとつの潮流は、最終的な売り方としてそもそもハード単体としての売り方から離れてきていることにある。タブレットは中間的であるが、スマートフォンは携帯電話の一形態であり、キャリアビジネスのエコノミーの内部に半分足を突っ込んでいる。これら電話端末系のものは、キャリアのサービスの利用価格とセットでプライシングさせるため、回線契約を得るためにハード販売についてはキャリアが原資を出す形で値引かれるのが珍しくない。日本でも販売奨励金や0円端末といった話は見慣れた風景であり、すでにタブレットやスマートフォンの世界でもちらほら出てきている。

 消費者からしてもハードが厳密にいくらなのかがはっきり分からないことも珍しくなく、ハードメーカーにしてもキャリアの支援と最終販売価格とのバランスで売上が定まるために対消費者の見た目の価格競争の結果がビジネス成果とイコールではなくなる。サービスエコノミーの一要素としてのハード、というのはPCの場合は法人市場では伝統的に生まれている構図ではあるが、コンシューマービジネスにおいてもデジタルネットワーク機器については、統合セット販売の流れが強まっている。

 余談になるが、ゲームビジネスも特定ハードから離れる流れにある。ハードウェア販売とゲーム販売の利益バランスを考えて各社動くという単純なハード販売に依存しない形は以前からあったが、ネットワークゲームの出現や内部のアイテム課金、月次の会員チャージなど販売本数を重ねるのではないサービス型のエコノミーとなってきている。

 コンソールゲームや携帯ゲームについても、特定ハードでゲームをリリースし、親和性の高い別機種へ順に移植していくスタイルから、共通開発プラットフォームを軸としてマルチ端末向けにリリースすることをゲームソフトの開発会社は志向している。 先日PlayStation Vitaが発表された際に、EA Sports社長ピーター・ムーア氏から「Vitaは今まで見た中で最高の携帯機」とのポジティブコメントがあったのは、横展開のしやすく使い勝手のよいハードなので自分たちのビジネススタイルを推し進めるに都合が良いという背景がある。業界全体がネットワークサービス化しつつあり、PCからスマートフォンとタブレットに需要シフトを起こしつつネットワークサービスと組み合わさっているのは両業界に共通したトレンドと言える。

 大きく見ると、(先進国の)コンシューマー向けのコンピューティング、情報機器(あるいは情報サービス)のビジネスはスタンドアロンOSであるWindowsビジネスの上に乗って伸びてきていたモデルから、ネットワークサービスモデルに構造シフトを起こしている最中ということになる。PCは需要シフトと生産機能の国際移転の2つの要因からビジネスとして締め上げを受けている。

 この動きは、ネットワークインフラの整備が十分でない新興国市場とデータ回線の高速化競争を競っている先進国とでは事業の形が異なってくることも同時に示唆している。メッセージングサービスなど負荷の軽いものはエリアに変わらず普及する傾向にあるが、リッチコンテンツ、ゲームやクラウドなどの高度なネットワークサービスは先進国市場が中心となっている。例えば、複写機メーカーを見ても先進国ではクラウド型サービスを市場投入しつつ、新興国ではコストダウンを図ってコンパクトに再設計したハードを単体投入するといった使い分けをしているのは良くある。

「時代は垂直型ビジネスである」とそれらしい論評をしている場合ではない

 グーグルのモトローラ買収については、単に垂直化しましたという見方と合わせて携帯エコノミーの中に強くハードが組み合わさっていくのでは、という解釈可能性がある。

 詳細は次回に触れるとして簡単に結論を提示すると、本件についてはあまり良い取引ではなかったのでは、との見方が筆者の周りでは優勢だ。特許(パテント)ポートフォリオの強化が意図だったとの分析が各所から出されているが、実際の中身を見ると買収価格を正当化できるほど強力なものではないのでは、との意見が知財分野における識者の意見として少なからず出ている。

 アンドロイドエコノミーを伸ばすのに、自社でハードウェア事業を保有する必要は必ずしもない。PCビジネスがOSのみを主戦場としてハードには手を出していないマイクロソフト陣営と、自社OS・自社ハードとOEMを一切行わないアップルの2つに分かれていたのは相応の理由がある。特段の調整施策を打たないのであれば、サードパーティとの軋轢問題は、いずれグーグルを悩ます課題になっていくことだろう。すでにサムスン周辺など韓国勢から、独自OSを含めたソフト強化すべしとの声が相次いで出されており、すでに波紋を呼んでいると言える

 グーグルのモトローラ買収を受けて表沙汰にしたものではなく計画としては以前からあったが、サムソンは独自OSの「バダ(bada)」を用いた「Wave」シリーズの新作を8月末に発表した。今後、本シリーズを商売の主軸とするかは定まっていないものの対アンドロイド、対グーグルへの対抗布石としての位置づけが意識される場面は増えることだろう。アンドロイドの普及には大きな懸念材料である。

 そもそもの買収価格の高さと現金を吐き出してしまったこと、得られたパテントの期待効果が思ったほどではなさそうなこと、製造パートナーとの関係悪化に繋がりそうなことを合わせて積算すると、単に高い買い物と言って済ますには面倒の方が増えたのでは、という風に見える。時代は垂直型ビジネスである、とそれらしい論評をしている場合ではない。

 次回は、グーグルのモトローラ買収について、というよりも「最近のグーグルって結局何をやってるの?」という問いに触れて本シリーズを結びたい。

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この記事の著者

渡辺聡(ワタナベ サトシ)

神戸大学法学部(行政学・法社会学専攻)卒。NECソフトを経てインターネットビジネスの世界へ。独立後、個人事務所を設立を経て、08年にクロサカタツヤ氏と共同で株式会社企(くわだて)を設立。現同社代表取締役。大手事業会社からインターネット企業までの事業戦略、経営の立て直し、テクノロジー課題の解決、マーケティング全般の見直しなど幅広くコンサルティングサービスを提供している。主な著書・監修に『マーケティング2...

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