日本と異なり、公共事業の規制緩和や民営化が進んでいる欧米では、電気/水道/ガスなどのエネルギーを供給する企業が数多く存在し、競争も激しい。したがって各事業者は、料金やサービスメニューなどで他社との差別化を図ることに注力している。また、とくに欧州では節電や有害物質規制などに対する一般市民の関心が高く、当然ではあるが公益サービス事業者は自社の利益のみを追求する営業行為は許されない。
本稿では、英国のエネルギー事情に詳しいSAP UK & Ireland Limitedでユーティリティ(公益事業)業界担当のプリンシパルを務めるマイケル・ルイス(Michael Lewis)氏のプレスセミナーに参加する機会を得たのでこれを紹介したい。英国では13年前からエネルギー業界の規制緩和が始まり、数多くの公益サービス事業者が存在する。その中にあってSAPはエネルギー業界において72%という圧倒的なシェアを獲得しており、公益事業に関するベストプラクティスも数多く蓄積されている。世界各国でエネルギー施策が大きな転換点を迎えるなか、SAPはどんなソリューションをもって事業者に、そして一般消費者に対するアプローチを続けているのか。キーワードは「スマートメーター」、そしてインメモリソフトウェアの「SAP HANA」になる。
スマートメーター設置が進む英国
英国は2009年に「2020年までに国内2,600万世帯に4,800万個のスマートメーターを設置する」という方針を発表している。スマートメーターはスマートグリッド化の根幹を支えるデバイスであり、これにより電力使用量の見える化、一般消費者と電力会社の双方向通信などが可能になるとされている。スマートグリッド化が普及すれば、省エネ/節電も進み、温室効果ガスの削減などにも大きく寄与することが期待されている。現在、英国では電力だけでなく、ガスや水道のスマートメーター開発の動きか活発化している。2020年という目標も、国民にとってリアルに受けとめやすい設定だといえる。
英国規制当局(offgem)は現在、DataCommsCo(DCC)というシステムの構築を進めている。これは簡単にいえば地域ごとのスマートメーターのネットワーク(WAN)を集約し、データを配信するしくみで、エネルギー業界に携わる人なら誰でもスマートメーターのデータにアクセスすることが可能になるという。実現すると1台のスマートメーターから、1日48回ものデータ検診を行うことができるようになる。現在の年2回の検診という回数に比較すると、そこから得られるデータ量は膨大なものになることがわかる。DCCは2014年第2四半期のローンチを目指しており、現在は第2ステージ、「DCCのファウンデーションを構築する段階」(ルイス氏)にあるという。
ルイス氏によれば2014年のDCCローンチまでに1,000万世帯へのスマートメーター設置が完了すると言われれている。ここで課題になるのは、全世帯にスマートメーター設置が完了する2020年までに、スマートメーターと旧式のメーターが混在するという点だ。2つの異なるデバイスが問題なく併存できる環境の構築が求められることになる。