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「ソーシャルメディア☓事前期待のマネジメント」でビジネスは拡大する-- 『勝負は、お客様が買う前に決める』著者 柴崎辰彦氏

 サービスサイエンスという分野をご存知だろうか? もともと米国でサービスを科学するために始まった学問分野で、IT業界やマーケティング業界などで幅広く応用されている。このサービスサイエンスの根幹にある「事前期待のマネジメント」という考え方を応用し、ソーシャルメディアを使ったビジネス手法について解説した『勝負は、お客様が買う前に決める』という本が話題である。著者である富士通の柴崎辰彦氏に話を聞いた。

ソーシャルメディアとサービスサイエンスで「買う前のファン」をつくる

 

 --- 『勝負は、お客様が買う前に決める』って力強いタイトルですね。なぜ「アフターサービス」ではなく「買う前」なんでしょうか?

 この本は「ソーシャルメディア ✕ 事前期待のマネジメント」という考え方によって、お客様がサービスや商品を買う前に、その企業や店舗のファンにしてしまうことが出来るという考え方を展開しています。たとえばtwitterで一時期話題になった、豚組という豚料理のこだわりのお店が有名ですが、ソーシャルの中で「あそこはタレも種類があって豚も銘柄がいろいろと選べるらしい」など口コミが浸透していて、行く前からのファンを獲得していますよね。そういう状況は、お店や企業が、情報のやりとりをしていることから生まれてくる。お客さんの言葉をリツイートしたり、やりとりしていることが、それを見ている他のお客様に影響力をおよぼし共感の輪が広がっているのです。ソーシャルのこうした効果についてはこれまでも、さんざん言われてきたことではあるのですが、実践している企業やお店はまだまだ少なくて、マスメディアのように情報を一方的に投げつけている企業やお店が大半だと思います。

 そこでマーケティングなどにソーシャルメディアを使おうという人たちに、サービスサイエンスの「事前期待のマネジメント」というコンセプトを知ってもらうことで、もっと上手なソーシャルメディアの使い方を身につけてもらうというのが本書の狙いです。

 サービスサイエンスの「事前期待」の考え方では、マスメディアもソーシャルメディアも手段でしかなく、「お客様がどのようなことに期待して、それに対してどんな対応を企業や店舗がおこなうか」が重要です。大切なのは、お客様に共感してもらえるようすること。「事前期待のマネジメント」の考え方に立ち、ソーシャルメディアを活用すれば、「お客様が買う前に勝負を決める」ことも可能になると考えています。

 

 

事前期待と実績評価が満足度を左右する
事前期待と実績評価が満足度を左右する

 

オオクワガタのブリーディングとサービスサイエンス

 --- 柴崎さんの富士通のお仕事とサービスサイエンスの関係は?

 

  サービスサイエンスは、もともと米国のIBMから始まっています。日本では、情報処理学会でも議論されていますし、東工大、東大、京都大学、一橋大学などで研究されています。情報分野の理工系やマーケティング、経営などの人文系など様々です。私の場合は大学で学んだということでなく、「現場実践系」といえるでしょうね。

 富士通でCRMのビジネスやコールセンターのビジネスを立ち上げる中で、いろいろな方と意見交換をしていました。諏訪良武氏との交流からサービスサイエンスを知って、諏訪氏の『顧客はサービスを買っている』を読んだ時、自分の求めていたものはこれだと感じました。実際、諏訪さんの考え方は、オムロンフィールドエンジニアリングでお客様のサポートでやってきたことをベースにしているので、現場のビジネスに適合するのです。

 サービスを科学するだけでなく、実際のビジネスに活かすということが目的なんですね。

 

富士通株式会社 システムインテグレーション部門 戦略室長
柴崎辰彦氏
富士通株式会社 システムインテグレーション部門 戦略室長 柴崎辰彦氏

 

 --- 柴崎さんは、オオクワガタのブリードサービスのWebを運営されていますね。こちらでの実践が活かされているということですね。

 個人としても、オオクワガタを対象としたCRMサイトを運営してきました。そこでWebやモバイル、オークションサイト、ソーシャルメディアなどを使い、マルチチャンネルのコンタクトセンターを実践してきました。

 オオクワガタのブリードをサービスとして考え、価格を下げずに価値を高め、売っていくという実践の中で、サービスサイエンスの考え方がぴったり当てはまった。そこで「サービスサイエンスとオオクワガタのブリーダー」に関するプレゼンをあるセミナーでしたところ、情報処理学会の先生の目に止まり論文や学会のセミナーで発表の機会をいただきました。

 

 --- 具体的にはサービスサイエンスのどういうところが、実際のビジネスに役立つのでしょうか?

 

 成功の鍵は、まずお客様の事前期待を理解し、その事前期待に応えることです。

 お客様がサービスや商品を体験した時の満足度は、事前の期待値と実績評価の関係によって決まります。実績がお客様の事前の期待値にどこまで応えているかを把握することが大事。ソーシャルメディアでの双方向の対話は、お客様との共感を形成していくプロセスなのです。マスメディアのように一方通行で使うのではなく、お客様の事前期待というものを意識してやっていましたか?と問いたい。

 本当の商売上手の人というのは、これは意識しないでやっていることですが、普通の人でも、事前期待の分類や把握の仕方を身につければできます。

 そのために、そもそも事前期待というものはどういうものがあるかを把握する必要がある。日本人の習性として、「とにかくお客様のため」と思いがちなのですが、次のような、事前期待の分類をすることである程度頭の中がすっきりします。

 

 これは個別の話だねとか、これは共通的な話だねとか、これは潜在的なものだねとか、時と場合によって変わるものとか、事前期待にもいくつか種類があって、それに応じた処方箋、対応をリアルな応対やソーシャルメディアでおこなうというのがポイントです。基本は共通的な事前期待に応えること。ビジネス街の定食屋さんでは、スピードが共通的な事前期待で、定食が早く出て来なかったら嫌われます。常連であれば阿吽の呼吸で、店員がメニューを理解してくれるというのは、個別的な事前期待です。状況で変化する事前期待は、お客様との会話などから読み取ることができます。潜在的な事前期待では、お客様が気づかないサプライズの提案など。野球ショップにグッズを買いにいった少年が、イチロー選手が好きであれば、予期していなかったプレゼントがもらえて、強烈なロイヤリティが生まれるとか。事前期待の段階や種類を理解して、事前期待に応えることが第一歩です。

 それができるようになって、事前期待が実態を上回るようになったら、次に「事前期待のマネジメント」が必要になります。事前期待に応えることが第一ステップ、次のステップが事前期待をマネジメントすることです。

事前期待をどうマネジメントするのか

 --「事前期待を冷ます」というのはどういうことでしょうか?

 

 過度に期待された事前期待に対しては、客観的な情報を示してあげることです。例えば実際のものの写真を見せて、どういうものかをきちんと伝えるということ。もうひとつは、第三者の客観的な情報や評価の情報を提供するとか、第三者のコメント、記事を紹介するなどです。

 たとえば旅館などでは、最上級の一番良い部屋を改築した一番きれいな状態でパンフレットにのせていて、並のクラスに泊まったお客様からは失望されたりするケースがありますね。こういう落胆を防ぐために一歩先を行く気の利いた旅館では、宿泊される部屋の写真を紹介することも考えられます。中古車の自動車サイトで、写真をきれいに加工して新品同様に示している場合もありますが、多少の傷や価格相応の状態を示してあげる方がお客様の共感を得やすい。

 お客様本位に立って場合によっては他社製品を紹介したりする、アドボカシーマーケティングという考え方に少し近いかもしれません。

  平均的なサービスであれば、そこまでで十分なのですが、もっとサプライズや感動を与えるようなサービスであれば、潜在的な事前期待に応えなければいけませんね。

  これについては、最近では上田 比呂志さんの本(『ディズニーと三越で学んできた日本人にしかできない「気づかい」の習慣』)が参考になります。上田さんは三越の立場で、自ら希望してディズニー大学に行った後、フロリダのパビリオンの館長を経験された方ですが、ディズニーの仕組みや仕掛けだけでは、日本の「気づかい」や「おもてなし」には勝てないと言われています。

 マニュアルや仕掛け、仕組みで対応だけでは、本当の共感は得られません。ディズニーランドの中で子供たちにキャンディーを配る場合、欧米人であれば手を差し出してくる子供にあげますが、日本人スタッフはもじもじして手を出さない子にもあげるといいます。こういう気づかいの部分は、仕組みでは実現が難しい部分です。

 今、サービスの世界では、欧米式のホスピタリティと日本的な「気づかい」「おもてなし」をあわせ持つことが大切になってきています。

 

 

 

 サービスをプロセスに分解し、モデル化する時に重視する考え方にサービス品質という概念があります。

 サービス品質には6つあります。正確に対応する、迅速に提供する。柔軟に対応する、共感性、安心感などがあります。この中でも、共感性という部分が最も大事だと思います。日本人の「気づかい」や「おもてなし」といった国民性はこういう共感性の発揮によるものです。本書の監修者でもある小林弘人さんも別著の『メディア化する企業はなぜ強いのか』で、「近江商人の『三方よし』のコンセプトは、ウエブによってつながった今の企業活動もっとも求められているものだと考えます」と語っています。本書もそうした共感の形成のための、ソーシャルメディアの活用について、具体的なヒントを出して、企業のマーケッターやビジネスを進める方とサービスサイエンスの橋渡しが出来ればと願っています。

 

 

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【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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