顧客に価値をもたらす「プロダクト」と「サービス」の組み合わせ
ビジネスモデルを構成する1つ目の柱は、「プロダクト革新」です。プロダクト革新は、事業体が自身の顧客に提供するモノの全ての側面を含み、ビジネスモデルの中核を形成します。プロダクト革新の唯一の構成要素は「価値提案」です。価値提案とは、「事業体のターゲット顧客に対して価値をもたらす、プロダクトとサービスの組合せの全体像」を表すものです(図1)。
価値提案という言葉の背景には、2つの理由があります。1つ目は、その価値は提供者側の価値ではなく、顧客が受け取る(あるいは認識する)価値という点にあります。つまり、有名な言葉である「ドリルを買う人が欲しいのは穴である」という、顧客志向の考え方に立脚したものです。2つ目は、現代において、複合的なプロダクトやサービスの組合せが、1つの価値提案を構成するケースが増えてきているという事実です。スマートフォン、クレジットカード、パック旅行などを考えてみれば、それらが複数のプロダクトやサービスの組合せで構成されていることが分かりますよね。
固有の価値提案を構成するプロダクトやサービスそれぞれを、「オファー」と呼ぶことにしましょう(図2)。価値提案を構成しているものであれば、それらが有料・無料であるかは問われません。また付帯サービスも、顧客にとって何らかの価値があるのであれば、「オファー」となります。ただし、街で配っているティッシュのようなものは販促グッズですので、オファーの対象とはなりません。
1つ以上のオファーから構成される価値提案の典型的なビジネスモデルとして、ジレットモデル(本体は無料もしくは廉価にして替え刃で稼ぐ)、逆ジレットモデル(iPod本体は有料でコンテンツダウンロードは無料もしくは廉価)、フリーミアムモデル(基本オファーは無料で追加オファーは有料)などがあります。
価値提案とオファーを結ぶ価値提案側の黒塗りの菱形は、2つのビジネス要素間の特殊な関係性を示すもので、一方が他方の一部(もしくは全部)を構成していることを意味します。つまり、「オファーは、価値提案の一部もしくは全てである」というように解釈されます。比較的単純なプロダクトやサービスの場合は、オファーは価値提案そのものとなります。
価値提案を中核とした他の主要なビジネス要素の関係性を、第2回目でご紹介した「概念モデル」を使って表わしてみましょう(図3)。
図3は、「価値提案は、ターゲット顧客に価値を提示する」、「価値提案は、コンピタンスに基礎を置く」という関係性を表しています。これは自明の理ですよね。コンピタンスとは、事業体が価値提案を生成するための固有の技術、技能、知識、ノウハウの集合体を指すものです。ホンダの「エンジン技術」、キャノンの「光学技術」、TSUTAYAを経営するカルチュア・コンビニエンス・クラブの「顧客洞察力」と言えば分かりやすいかもしれません。これについては、ビジネスモデルの3つ目の柱である「オペレーション基盤」の中でご説明いたします。