今まで本連載では特許権、意匠権、商標権という産業財産権について説明してきた(実用新案権については読者層であるITエンジニアとの関連性がやや薄いので割愛する)。いよいよ著作権の出番だ。産業財産権法が基本的にビジネスの世界を扱う法律であったのに対して、著作権法はコンテンツ・ビジネスだけではなく日常生活にも大いに関係する。しかも、刑事罰を伴うこともある厳しい法律であるという点では産業財産権法と同じなので、あらゆる人がその基本を理解しておくべきだ。
基本を理解するとは言っても、著作権法は長年にわたる改訂が積み重ねられてきておりきわめて複雑な法律になっている。専門家でもそのすべてを完全に把握している人は少ないのではと言われるくらいだ。そこで、3回(ひょっとすると4回)に分けて、著作権法の基本中の基本について説明するとともに、今日における課題とあるべき姿について考えていこう。
最初に注意しておきたいのは、著作権法に限らず法律(さらには、より広く「制度」)を論じる時には「こうなっている」という議論と「こうあるべきだ」という議論は分けて考えるべきと言うことだ(専門的には前者を解釈論、後者を立法論と呼ぶ)。「日本の法律では18歳の人の飲酒は禁じられているのかいないのか」という議論と「18歳でも十分大人なのだから18歳の飲酒を認めるべきだ」という議論を同時に行なっても収束しないのは明らかだ。まずは、著作権は「こうなっている」という話を片付けてから、その後に「こうあるべきだ」という議論を進めていこう。
著作権法の目的とは?保護と利用のバランス
著作権法に定められた目的は「文化の発展に寄与すること」だ。その目的のために、著作物等の公正な利用に留意しつつ、著作権者の権利の保護を図るとしている。特許法が発明の保護と利用のバランスを取って産業の発達を目指すのと同じ構図だ。ここでも、重要なポイントは保護と利用の適切なバランスだ。
保護が強すぎれば国民が良質の著作物にアクセスできる機会が減り文化の発展が阻害される。逆に、利用の促進が強すぎれば著作物の制作者が投下資本を回収できなくなってインセンティブを失い、同じく文化の発展は阻害される。この両極端の間でバランスを取った制度が必要だ。なお、ここで、日本の著作権法は保護に偏りすぎでないかとの意見が聞かれそうだが、この議論は「こうあるべきだ」論なので次々回まで待ってほしい。