オンプレミスの開発コンサルからクラウド開発へ
アピリオという会社は、Salesforce、Google、Amazon Web Serviceなどのクラウドコンピューティングの開発支援をおこなう会社だ。とりわけSalesforceのPaaSである、Force.comを基盤にしたエンタープライズ系のクラウドインテグレーションが強みだ。現在、米国、インド、日本などグローバルで600人の社員のうち、450人がコンサルタントである。
そのアピリオの米国本社のマイク・エプナー氏は、CMMやプロセス改善の会社、テラクエスト社の開発エンジニアとしてスタート。同社がボーランドに買収された後、ボーランドのクリス・バービン氏が立ち上げたアピリオに移籍した。
「もともとはソフトウェアの開発者としてスタートした。ボーランド時代はソフトウェアの開発プロセスに関するコンサルティング、プロジェクトマネジメントに注力していた。中でも力を入れていたのは、アプリケーション・ライフサイクル・マネジメント(ALM)の分野。その時代にユーザーとしてSalesforceを導入したのがきっかけで、クラウドの将来性を確信した。」(マイク・エプナー氏)
ボーランドのようなオンプレミスの開発と、クラウドの開発ではその方法論において大きく異なるのではないか。この点について尋ねると、「一番違うのは、ソフトウェアのバージョン管理。オンプレミスの場合、ライフサイクル管理や大規模な開発管理には限界がある。クラウドでは常にひとつのバージョンを共有できるため、開発の生産性が飛躍的に向上することを、ボーランドでSalesforceを導入し、ユーザーとして身を持って経験した」という。
クラウドソーシングの開発コミュニティ「CloudSpokes」
アピリオが主体となって運営する「CloudSpokes」という開発コミュニティがある。これは、クラウド上で多数の開発者が参加し、開発のプロジェクトを発注するという仕組みである。まさに、クラウド(Crowd)ソーシングによるクラウド(Cloud)開発のイノベーションといえる。
具体的にいうと、一定の報酬で「チャレンジ」として特定の開発案件を募集し、それに対して世界中の開発者が応募する。評価プロセスを経て、最も優れたソフトウエアに対して、報奨が支払われる仕組みである。依頼主の側は、具体的な仕様・報奨金額を設定した後に、「チャレンジ」としてCloudSpokesコミュニティに掲示をおこなう。開発者はチャレンジの内容を確認し、自信の得意分野に応じて応募するという形だ。応募されたコードはレビューが行なわれ、受賞したものに報酬が支払われる。現在、CloudSpokesには、約75000名が登録している。
コードの品質を保証するもの、それは開発者の「競争心」と「お金」
こうしたクラウドソーシングによる開発には、品質や情報の保全という点でリスクはないのだろうか?その点を、エプナー氏に質問してみた。
「開発者の特性として、自分たちの技術に対する誇りと競争意識があるから品質は高まる。またアピリオのメンバーをはじめ応募されたコードは、厳密なレビューがおこなわれる。基本的にチャレンジとして募集されるのは、ソフトウェアのコンポーネントなので、開発プロジェクトの全体像が公開されるわけではない。そしてオープンソース系のコミュニティと違うのは、お金(笑)。人に対してではなく、成果物としてのコードに対して対価が支払われる仕組みなので、結果的に品質の良い物が出来上がる」(マイク・エプナー氏)
アピリオ自体が、ベンチャーであると同時に、スタートアップベンチャーを支援している。最近の米国のスタートアップ企業は、ほぼ100%クラウドによる基盤を前提にしているのだという。スタートアップ企業のクラウド活用のパターンについて聞いてみた。
「われわれのCloudFactorという製品は、GmailのメールボックスとSalesforceを連携させ、メールと商談を結びつけるサービスで、AWSを基盤にしている。Salesforce+Google+AWSなどのクラウドの組み合わせは、スタートアップには適している。」(マイク・エプナー氏)
米国では、前述した2つのクラウドとアジャイルなスタートアップの手法によって、活気づいていることは確かなようだ。アピリオの今後の展開が注目される。